日本の“勇者”を増やせ! スタートアップ×クリエイティブ「GRASSHOPPER」始動

2018.10.22

政府による「J-Startup」の始動など、スタートアップ育成の動きが本格化する2018年、日本を代表するメンター陣と電通が支援プログラム「GRASSHOPPER」をスタートさせる。キーワードは、クリエイティブとブランディング。そして仕掛け人のひとりは、自身もイノベーターでありクリエイティブ・ラボ PARTYでプロモーションから事業開発まで手がけるクリエイティブディレクター中村洋基だ。

中村が、その狙いとプログラムの力点、イノベーターとして必要な意思決定パターンを語る。

スタートアップと電通の距離が、社会的に“もったいない”

―このたび立ち上げた、「GRASSHOPPER」とはどのようなプロジェクトですか?

中村:GRASSHOPPERとは、電通と外部のメンターによる、クリエイティビティに重きを置いたアクセラレーションプログラムです。

目玉は、半年に1回行われるピッチイベント「GRASSHOPPER DAY」(1回目は2019年1月後半に開催予定)で、10社程度のスタートアップや起業前でもシードとしてポテンシャルのあるソリューションを一堂に集め、プレゼンテーション&カンファレンスを行います。それと、この記事が出ているメディアの2軸で構成されています。電通CDCの月村寛之と私が中心となり立ち上げました。

―すでに世の中たくさんのデモデイ・イベントやアクセラレーターがあります。後発でスタートさせた経緯、そしてその意義は?

中村:もともと電通に在籍していて、2011年にPARTYとして独立したのですが、外から客観的に見ると、電通とスタートアップの間に距離があるのが社会的にもったいないなと思っていました。例えば、5億とか10億資金調達して、いざ事業をグロースさせたい!顧客を大量獲得したい!といった、本格的なマーケティング・ブランディングが必要な段階で、何をすればいいか正解が分からず悩むスタートアップ経営者をよく見かけます。そんな彼らにとって、6,000社以上の企業やメディアのハブになっている電通は、最有力パートナーになりうるはずなんですが、業界が分断されていることを不思議に感じました。

また、私は古巣の電通を、けっこう最高の会社だなと思っていて。そんな自分がわざわざ独立した理由の一端も、この近くにあると思っています。

「THE BRIDGE Fes」などをプロデュースし、多くのスタートアップとコネクションがある月村さんと意気投合し、いろいろなスタートアップと電通、その先にいる企業がつながる新しいハブをつくろう、と月村さんと一緒に立ち上げました。

コアは、クリエイティブとブランディングの強さ

―このGRASSHOPPERの強みはなんでしょうか?

中村:最終的に支援のコアとなるのは、電通の強みであるブランディングとクリエイティブの経験と実績を使えることですね。様々なスタートアップ経営者とお会いしましたが、ほとんどがマーケティング、ブランディング、その先にあるクリエイティブを課題に感じています。そこで電通がスタートアップ業界に寄与できるエコシステムをつくるのが最終目的です。

―どのような内容のメンタリングを用意しているのですか?

中村:大きくはブランディング、マーケティングを中心にしながら、UI/UX、デザイン、資金調達、法務までスタートアップの悩み事が網羅的にメンタリングできるような体制を整えています。メンターには、テクノロジー:Bascule朴正義さん、UI / UXはTHE GUILD深津貴之さん、マーケティングはBloom&Co.彌野泰弘さん、資金調達はインキュベイトファンド村田祐介さん、シリアルアントレプレナー家入一真さん、デジタルトランスフォーメーションはarm Treasure Data堀内健后さん、クリエイティブは電通の樋口景一さん、法務は弁護士の山辺哲識さん、そしてブランディング&PRで中村といった体制でスタートします。

―ピッチイベントに向けて、どのようなスタートアップに応募してきてほしいですか?

中村:イベント参加企業さまも、「クリエイティビティ」を軸に募集させていただく予定です。ピッチイベント10社ほどのプレゼンすべてが「そんなやり方あったのか!」「メチャクチャおもしろい!」とみなさんがワクワクする場にしたいです。それも、ただの突飛な思いつきではなく、ユニコーン企業に成長できるような会社やソリューションを期待しています。「俺のことだ!」と思った方はぜひ応募してください(笑)。

『こんなものあったら面白い』が僕の起点」

―ここからは、VALUも立ち上げられた“イノベーター・中村洋基”への質問です。中村さんがアイデアやキャンペーンをゼロから生み出すときの源はなんでしょうか?

中村:広告会社時代から、職業病的に日常で気になることとか、使えるかもと思ったことをネタ帳に書き込み続けています。

はじめは、広告キャンペーンに使えないかな、と思ってやっていましたが、けっこう新規ビジネスアイデアのもとになっていたりします。例えば、今見ると……。「野球中継って素人にはカーブとかフォークの軌道がよく分からないから、変化球をリアルタイムにARでエフェクト可視化する野球中継」とか、「沖縄の頼母子講は現代にデジタル化できないか」とか。でもほとんどは「盗んだバイクが勝手に走り出す」とか、荒唐無稽なものなんですが。

デジタルの広告キャンペーンは、超短期のネット事業に似ていて、「どうやったらバズるか」「こういうルールならこう人は動くのでは」という経験値は、日本でも有数の自信はあります。

―PARTYで新規事業を考える際も、市場やターゲットといったマーケティング視点よりも、「それが世の中にあったら面白いか?」といった思考が出発点なのですか?

中村:あ、それはそうですね。特にスタート時点では、いわゆるMBAとかで習うような「ビジネスモデルを作るときの必要な要件」とかは完全に無視して作って、あとから市場価値やマネタイズ方法はついてくる形式でした。

私の場合は、とにかく世の中にまだないコミュニティをつくりたい、という欲求が強いので、PER(株価収益率)を出すときにあまり似たモデルがない、ということが多いです。VALUなんかはまさにそうですね。「一人ひとりを株式のように値付けできたら面白いかも!」といった着想が元々あったのですが、思いついた当時ビットコインみたいなものは誰も持ってなかったし、一般的には理解しづらいアイデアだろうから、PERが出せませんでした。

でも始まった瞬間に、情報先行者層が一気に入ってきて、その後世の中の反響を受けて、今もグロースはどんどん進んでいます。「それが世の中にある状態」をどれだけワクワクできるか、をまず信じたいですね。

やらないでうまくいかなかった、は失敗に入らない

―ブランディング、プロモーション、サービス開発など、様々な領域を手がける中で、中村さんの価値とはなんでしょうか?

中村:……自分の価値を客観視するのは難しいですね。得意なことはいくつかあるつもりですが、変わらずにやっていきたいのは「一つ新しいゲームのルールを加えて、世の中に新しいコミュニケーションをつくる」ことです。先ほど紹介したVALUでいうと、基本的にはSNSなんですけど、そこに「自分の価値」というベクトルが加わるだけで、急にコミュニケーションが変わるんです。VALUのユーザーは、キャラ立ちしている、自分の個性を世の中にもっとアピールしたい、おもしろい人たちであふれるようになりました。信用経済がどうだとか、お金2.0とかいっていますが、私はそういう立脚点ではなくて。たとえばファンクラブや寄付はお金をただただ支払うものですが、それが「投資」に変わったらどうなるか?その人が成長すれば価値が上がり、キャピタルゲインをもらえる。その人の成長を100%応援する立場になるし、お金も出しやすいなと考えました。そして、自分のまわりには、「それならこいつに1,000円出したいぞ」という人はたくさんいました。これがコミュニケーションの仮説です。

―とりあえず世に出したけどうまくいかなかった!といった失敗の経験もあると思うのですが、中村さんは「失敗」について、どう捉えていますか?

中村:月並みな話ですが、やらないでうまくいかなかったのは失敗に入らないと思っています。やらないで自然消滅しちゃったようなことが一番つまらないし、もったいない。例えば広告キャンペーンでも、どれだけ考え抜いて世の中に出しても、出した瞬間に「こうしておけばよかった」と思うことが多々あります。世の中に出すことで反応に触れて、失敗に気づいて、経験値が一気に溜まる瞬間があるんです。

だから、できるだけ多くのバッターボックスに立つようにしています。どうすれば実現できたのか、その知見を得るには、やるしかないんです。

―やりたいという嗅覚を信じて推進しきるのってなかなか難しいと思うのですが、そういった時に大切なことはなんでしょうか?

中村:「心の底からやりたい」という、周りの人を牽引する熱量に尽きますね。作っている時って、樹海をさまよっているようなものなので、熱量の強い一人の先導者が意思決定者にならないとダメだと思っています。

イノベーションディレクター・医学博士の石川善樹さんが面白いことを言っていました。「ドラクエの勇者は頭がおかしい」という話です。だって、世の中は魔王に支配にされながらもまあまあ平穏に生活できている中で、ある日突然なんでもない奴が「俺は勇者だ!」とか言って、勝手に立ち上がって仲間を集めて、モンスターを殺しまくって金を追いはぐわけです。魔王を倒せば伝説の勇者だけど、やっている途中は、完全にマトモじゃないですよね。スタートアップの経営者ってこの勇者に似ているね、という話です。GRASSHOPPERでも、そんな“勇者”と出会えることを楽しみにしています。

text:長島龍大
edit: 西村真里子