“失敗解像度”を上げることがイノベーションの鍵– Bascule代表 朴正義

2018.10.23

政府による「J-Startup」の始動など、スタートアップ育成の動きが本格化する2018年、日本を代表するメンター陣と電通が支援プログラム「GRASSHOPPER」をスタートさせた。キーワードは、クリエイティブとブランディング。今回話を聞いたのは、当プログラムのメンターの一人で、先端テクノロジーを取り入れた広告・空間・プロダクトの企画を手がけるBasculeの代表・朴正義。

近年では「DATA-TAINMENT」をキーワードに、投球データを再現してプロの球に挑戦できる「VR Real Data Baseball」や流星データと連動したイルミネーション「星降ル森」など、スポーツ・宇宙関連・都市開発など領域を超えた新しいクリエイションに挑戦し続け、その活動は多岐にわたる。そんな朴が、イノベーターとしての必要な素質や思考回路、そして「GRASSHOPPER」にかける想いを語る。

創業から約20年、「インタラクティブ」が当たり前になった時代に想うこと

―まず、2000年のBascule創業当時から現在まで、時代の変化とともに仕事の中身はどのように変わっていますか?

朴:変化のキーとなったのは、SNSの登場だと思います。昔は「見てもらって楽しいモノ」を提供すればよかったところにSNSが登場し、人が発信できるのが当たり前の時代になりました。その変化によって、どんな体験も主役がユーザーへとシフトし、見てもらうだけでなく「使ってもらって楽しいモノ・主役になってもらって楽しいモノ」を作らなければならなくなり、企画者としての意識が大きく変わりました。

―Basculeでは以前より「インタラクティブ」をキーワードに広告や空間デザインなど、さまざまな企画を発信してきましたが、これから「インタラクティブな体験」はどう変化していくと感じますか?

朴:昔はPCやスマホの前で、コンテンツに対して能動的な人を相手にインタラクティブな体験を提供すればよかったんです。しかしテクノロジーが当たり前になった今は、体験の場がデジタルからリアルまで広がり、ただ街を歩いているような瞬間にもインタラクティブな体験を提供できるようになりました。いかに世の中や暮らしに溶け込みながら、人の営みの中にあるモーメントを見つけて、驚きの体験やクリエイティブを作るかが重要になっていると感じています。

「こんな未来を迎えたい」とイメージしながら、今するべきアクションを考える

―ここからは、“イノベーターの代表格”として語られることの多い朴さんへの質問です。最先端のテクノロジーを武器に、様々な事業や企画を生み出しているバスキュールですが、企画をする時に意識していることは何ですか?

朴:「誰よりも早く仮説をカタチにしてみること」がモットーです。時間というものは「現在→未来」ではなく「未来→現在」に流れていると思っています。つまり、「未来へ向かう」のではなく、「未来を迎える」というイメージです。「未来はこうなるんじゃないかな」「こんな未来ってどこにあるんだろう」と迎えたい未来、迎えるべき未来を想像しながら、今するべきアクションや今とるべきスタンスを考えるようにしています。ボクは基本、面白いものが生まれる現場に居続けたいだけなので、最先端の情報や技術にもアンテナを張りながら、これがあったら、未来に面白いことをやっている現場に仲間入りできるかなと思えるデモを、誰よりも早く世に出してみることを心がけています。

―誰よりも早く手を動かす中で「試してみたものの、うまくいかなかった!」といった失敗の経験もあるかと思うのですが、朴さんは「失敗」について、どう捉えていますか?

朴:失敗にもレベルがあるので、失敗の解像度を高めるようにしています。その作業をすることで、どのレベルの失敗まで許せるのかという覚悟が決まるんですよね。すると、「レベルの低い失敗が許せる」ようになるので即断即決できるようになり、自然と打席も増え、失敗が学習に変わり、つまり失敗が失敗ではなくなり、成功へのプロセスになっていきます。なので、「怖いから動かない」が一番の失敗と思っています。4打数4安打より、100打数5安打の方が価値あると信じて行動しています。
失敗するのが怖くて行動を起こせない人ほど、実はこの失敗としっかり向き合ってないのかなと感じています。最悪の失敗リスクと向き合い、失敗をレベル分けしてここまでは大丈夫と自ら基準を定めれば、動けるようになると思うんです。
漫画「カイジ」の鉄骨渡りにたとえると、高さを知らずに渡り始めたら恐怖しかないですが、「50センチしか落ちない」と認識できていれば覚悟を決めて踏み出せますよね。ビジネスも、失敗の基準を自ら定めて、覚悟を決めてスタートすれば、途中の損失も怖くなくなります。でも、ここまでは自腹を切ってもいいやと覚悟を決められるプロジェクトほど、世の中も求めているので、いい未来を呼び寄せる流れを作ってくれると思うんですよね(笑)。

チャンスを引き寄せる「上質な空気」と「好きのカミングアウト」

―現在のイノベーター・朴さんがあるのは誰の影響が大きいですか?

朴:業界が違えど、同じ熱量を持ってやっている人との出会いが刺激となり、今の自分を作っていると思います。どんな分野であれ、志高くやっている人の近くにいて、同じ空気を吸っていたいですし、あわよくば僕自身もその一人だと思われたいという想いはあります。こういった貴重な出会いは、ネットがハブになって時代がつながらせてくれたともいえるので、これからはどのようにそういった人たちとつながっていくべきかは意識しないといけないかもしれません。

―もともと宇宙や野球などが好きな朴さんの周りには、自然とその分野の仕事が集まってきて、実現させているような印象があります。多くのチャンスを引き寄せる秘訣はどこにあるんでしょうか?

朴:「やりたいことのカミングアウト」に尽きます。まず手を動かしてモノを作って、誰よりも早く世の中にデモンストレーションすることで「●●といえば朴さん」という評価が溜まっていく気がします。未来の人類はきっと暇になるというイメージがあるので、楽しい人生を送るために、自分が情熱を注ぐことのできる「好き」は大切にしています。

「次世代のプラットフォームづくり」を、GRASSHOPPERで

―今の時代における「自分の価値」をどのように考えていますか?

朴:自分の肩書は「次世代クリエイター歴18年」だと思っています(笑)。昔から一貫しているのは、映画やビデオゲームなどに続く「次の時代のプラットフォームを作リたい」という想いです。最近開発した「音声AR」もその理念のもとに作っています。
これまでもテレビや映画など、それぞれの時代に新しいプラットフォームが生まれてきましたが、ネットはどんなレガシーも巨匠も存在しない、多くの人に開かれたまったく新しい世界。そんな空間で「どれだけ夢のある世界が作れるか」にトライすることが、タイミングよくネット時代を迎え、育てられた自分の使命であり価値だと思っています。

―これまで次世代クリエイターの学校「BAPA」も運営している朴さんですが、今回メンターとして参加される「GRASSHOPPER」について、どんな場にしていきたいですか?

朴:「BAPA」もそうですが、分野は違えども同じ志を持つ起業家が集まり、化学反応が起こる場にしていきたいですね。教えを請うだけでなく、互いのエネルギーを感じたり、つながりが得られるコミュニティになるのが理想です。

―すでに世の中たくさんのデモデイ・イベントやアクセラレーターがあります。後発でスタートさせるGRASSHOPPERが目指すのはどんな姿でしょうか?

電通はコミュニケーションのプロなので、サービス・プロダクト・社会といったうまくつながっていなかったものをつなげるようなクリエイティブ的な支援の形は、大義があることだと思います。スタートアップと大企業の現場をつなげるのも、多種多彩なコミュニケーションが生まれる電通だからこそできることな気がします。
あと、近年スタートアップ業界では、マッチングやパーソナライズ、サブスクリプションなど切り口の近いビジネスが増えているので、たとえば簡単にサブスクリプションサービスが回せるシステムを提供するとか、参加者が自由に使用できるサーバーやインフラ・テクノロジーなど、「日本の起業家がチャレンジしやすいプラットフォーム」を用意できたら素敵ですね。最近、電通ライブさんと一緒に「音声AR技術」を使った様々な企画を手がけているのですが、この技術も自由に使ってもらえるまで育ててみたいです。
GRASSHOPPERと一緒に、日本をもっと、失敗を恐れずチャレンジしやすい社会にしようという気運づくりに貢献できたら嬉しいです。

text:長谷川きなみ
edit: 西村真里子、市來孝人