「スタートアップ×クリエイティブ」シナジーが生みだす3大価値–インキュベイトファンド 村田祐介

2018.10.23

政府による「J-Startup」の始動など、スタートアップ育成の動きが本格化する2018年、日本を代表するメンター陣と電通が支援プログラム「GRASSHOPPER」をスタートさせた。キーワードは、クリエイティブとブランディング。今回話を聞いたのは、当プログラムのメンターの一人で、インキュベイトファンド代表パートナー 村田祐介。創業を経験し、投資家に転じてから起業家とゼロイチで事業を作り、数々のエグジット実績を上げてきた村田が、スタートアップ×クリエイティブの意義、そして「GRASSHOPPER」にかける想いを語る。

スタートアップとクリエイターの接地面を増やしていきたい

―GRASSHOPPERのメンタリングは、スタートアップ×クリエイティブをコンセプトに行います。スタートアップにおけるクリエイティブの意味について、村田さんの考えを聞かせてください。

村田:大きく3つの視点でとても意味があると思います。
1つはプロダクト×クリエイティブですね。何年も前からシリコンバレーではデザイナーの価値がものすごく上がっています。20年前に比べてエンジニアの価値が高まったように、クリエイティブがプロダクトの価値につながるとの認識が強くなり、デザイナーの重要性がいよいよ日本でも認識され始めました。デザイナーはじめクリエイティブな方々は電通さんの近くにはいるけど、スタートアップの周りにはあまりいない(笑)。このアクセラレーターを通じて、クリエイティブのレベルが高い方々と日本のスタートアップの接地面が増えていくことを期待します。
2つ目は、テレビCMを筆頭とした広告・PRなどのクリエイティブ。スタートアップが自分たちのプロダクトを加速するために露出機会を増やしている中で、効果を出せている会社とそうでない会社の明暗が分かれてきた感覚があります。僕らの出資先でいうと、パートナーの赤浦が担当するSansan。あのCMはSaaS系の会社におけるクリエイティブと獲得単価とLTV(ライフ・タイム・バリュー)の考え方に大きく影響を与えたと思います。優秀なクリエイターが関わることで価値を最大化していくという流れが間違いなくあります。これらの人脈やノウハウは限定的なコミュニティの中でしか語られておらず、その輪を広げていくことは大事だと思います。
3つ目は、組織デザインのクリエイティブです。エンジニアドリブンなスタートアップが増えていく中で、クリエイタードリブンの会社が出てきて、スタートアップとの接地面が増えていくと新しいケミストリーが生まれると思います。
このように、クリエイティブの価値はスタートアップのラウンドやフェイズに沿って様々な効果をもたらすと期待しています。

―GRASSHOPPERはアクセラレーターとしては後発です。その中で、GRASSHOPPERでやりたいことは何ですか。

村田:大企業には、スタートアップに対して上から目線だったり外注先の一社と捉えるような発想の人が見受けられます。むしろスタートアップから何を学べるかということを目指してほしいと思います。スタートアップのプロダクトを生かして何ができるんだろうか、ということを、今回のスタートアップ×クリエイティブという掛け算でうまく見いだしてほしいです。

「何を一緒に作ろうか」から考える

―改めて、インキュベイトファンドと村田さんの業務の内容について教えてください。

村田:通常VCは、チームができてプロダクトがローンチされ、何らかの指標でスケーラブルだという一定の仮説検証がされたフェイズで初めて投資するところが多いと思いますが、僕らは1を100にするのではなく、0から1を生み出す、完全にゼロイチのフェイズに絞っています。シードステージというよりは、起業する人を探し、その人が持っているアイデアを尖らせたり、僕らの持っている事業アイデアやマーケット仮説を付け合わせたりして、一緒に事業を作ることから始めることにフォーカスしたVCです。

―投資先として人を選ぶときのポイントは。

村田:人として誠実であることと、その人のコミットメント、この2つです。24時間365日、考えられる人は強い。筋書き通りうまく行くことなどほぼあり得ないので、会社に危機的状況は訪れるけど、しぶとくやっていけるのが成功するための法則です。負けている最中なのに勝っていると思える感覚が大事だと思います。

ファンドとして、これからの2つの方向

―仕事は時代に合わせて変化します。インキュベイトファンドの変化について聞かせてください。

村田:ゼロイチをやり続けることには変わりはありませんが、この数年間で投資対象とする市場と人、またチケットサイズが大きく変わりました。
リーマンショックの直後、国内VCのファンドレイズ額が年間200〜300億しかない中で、2010年に僕らが作ったファンドサイズは30億くらいでした。そのファンドサイズだからというわけではないのですが、インターネットをネイティブに使いこなせる20代の若い起業家を中心にプロダクトを立ち上げることが多かったです。
今の僕らの方向は2つあります。1つは既存の成熟産業にインターネットが大きな変化をもたらす中で、これからコネクテッドになっていく産業にトライしていくことです。その市場の負の構造が明らかになったとき、何が大きく変わるのか、業界の構造を知っていてシニアな経験を持つ方々と見極めて事業を立ち上げていく。例えば4、5年前、車×インターネットが話題になり始めましたが、Google、AppleがOSを持ち込んできた時期に一気に考え方が現実的になって、MaaSという言葉もできました。例えば医療、農業、漁業、エネルギー、インフラ領域で同じことが起きるかもしれません。
2つ目は誰にも真似できないテクノロジーを持っているプロダクトアウトの会社に、マーケットの動きと関係なく張るという方向です。
今はこの2つの方向でやっています。ペインポイントの深い領域や既存産業のマーケット構造を深掘りしていくためには、チーム構成も開発バジェットそのものも大きくなるので、ファンドサイズを上げていきながらトライしています

―今のスタートアップのトレンドをどう見ていますか?

村田:特定領域特化型のBtoB SaaSが一つのトレンドだと思います。to Cだと、この2018年10月現在では、例えばブロックチェーン、VR・AR・XR領域、AI領域などバズワード化している3領域でも数百万、数千万人規模でユーザーを獲得できているものはまだ少ない。それに対して、to B SaaSはプロダクトをグロースさせる方法について起業家も投資家も理解がとても深まっており、また結果を伴うプロダクトが増えてきていることもあり、人と資金が集まっている、という印象を受けますね。

―「投資家の失敗」という側面についても聞きたいです。ぜひ教えてください。

村田:僕らの一番の失敗は投資機会を逸することです。なぜメルカリに投資していないのか。はい、僕らはメルカリに投資していない方のVCです(笑)。メルカリの創業期、山田進太郎さんとは僕ら4人の代表パートナーが個人的にも非常に仲が良く、彼が会社を作ったとき、こういうことをやるんだと聞いたことはあるのに、出資して一緒に立ち上げてやっていきたい、という言葉をなぜかけなかったか(笑)。
人ベースでもマーケットベースでもプロダクトベースでもピンとくるものが本当はあってもよかったはずなのに。山田さんがジンガに会社をエグジットして、世界一周から帰ってきて、シリアルアントレプレナーとして挑戦する。本来はもうそれ自体で価値が高いじゃないですか。今から考えれば一緒に立ち上げていくという話をすべきですよね。逆に距離が近すぎたからか、残念ですけど。
成功した起業家の中で、自分たちが関わっていない人がいるのはなぜなのか。時間は有限なので、めぐり会っていないというのもあるのですが、僕らとしては、そういう機会はもったいない。会えていない、会っているのに提案ができていない、出資してくれと言われて断っている、など機会を逸しているケースがあるのです。それが一番の失敗ですよ(笑)。

投資家と起業家の信頼関係とは

―最後の質問です。今の村田さんがあるのは誰の影響が多いですか? 

村田:いろんな人に助けていただいています。僕はゼロからスタートアップを立ち上げて行く黒子なんです。伴走者として支え続けられるか、一緒に走り抜けるか、という思いで関わってきた出資先の起業家たちと一緒に、これまで経験したことが血肉になっていると思っています。

―ご自分の投資に影響を与えた恩師のような方と言ったら誰になりますか?

村田:今インキュベイトファンドで一緒にやっている赤浦徹と、日本ベンチャーキャピタル協会の会長でグロービス・キャピタル・パートナーズの仮屋薗聡一さんの2人の影響は大きいと思います。

―どのような点ですか?

村田:起業家との信頼関係の強さですね。赤浦はゼロからだし、仮屋薗さんは一点トラクションを埋めたところから、得意領域に一気にスケールさせていく、と全然やり方は違うのですが、どちらも起業家から信頼されています。スタートアップはすぐ瀬戸際、ピンチになるのです。その時最初に声がかかる存在こそが信頼の証だと思うんですよね。一番悪いことが最初に伝わるという、降っても晴れても、ということなんですけど。相談だけでなく一緒にどう乗り切るか、仲間として相棒としてどこまでできるか、その点で2人から大きな影響を受けています。

text:月村寛之
edit: 西村真里子、市來孝人