「デジタルトランスフォーメーション」視点でスタートアップを応援–Arm Treasure Data 堀内健后

2018.11.05

政府による「J-Startup」の始動など、スタートアップ育成の動きが本格化する2018年、日本を代表するメンター陣と電通が支援プログラム「GRASSHOPPER」をスタートさせた。キーワードは、クリエイティブとブランディング。今回話を聞いたのは、当プログラムのメンターの一人で、Arm Treasure Dataの堀内健后。プライスウォーターハウスクーパースコンサルタント(現IBM)からキャリアをスタートし、その後マネックスを経て現職に至る堀内は、「データ」が貨幣以上の価値を持つ時代に向けたデジタルトランスフォーメーションを加速させている。その視座をメンターとしてどう活かすのか。同時に、日本人がシリコンバレーで起業したTreasure Dataにおいて日本法人の立ち上げからarm買収までの経験を持つ彼に、世界で通用するスタートアップの条件を聞く。

重要な「英語」「お金」「グローバルで戦える仕組み」

–日本のスタートアップが、世界で活躍するために必要なことは何ですか?

堀内:やはり英語ではないでしょうか? 説明不要なプロダクトを作れた場合は別でしょうけれど。サービスづくりなら、マーケットを理解する意味でも、世界中のチームとコラボするためにも、また出来上がったものを売りにいくのも、英語ができないともったいないですよね。そう、もったいないんです。良いサービスを考え出したり、作り上げたりするのは大変なことですが、英語は頑張ればみんなが使えるツールですよね。

日本をマーケットにしたサービスは、時として世界とニーズが違うことがあります。様々なものが整っている日本では不要であったとしても、世界だとまだまだ必要なものもあるので、最初から世界を考えておくことで成功することもあると思います。しかし、日本で生活している我々は意識を外に向けることが難しい。そういった意味で視野を広げる努力やセンス、コミュニケーションも必要だとつくづく思います。

一方で、漫画などのようなカルチャーは日本ならではですから、日本でピカピカにしておいてから売り方を工夫してマネタイズするのもいい方法でしょう。

次に、お金です。世界に広げていくわけですから。世界を知っている投資家から支援してもらうのはとても良いことです。その時、お金だけでなく経営のメンタリングをしてくれたり、顧客を紹介してくれたり、お金以外のところでどれくらいサポートしてもらえるか。そういう人なら起業家にとって必要なパートナーとなります。製作にエンジニアを雇う、研究開発をする、量産するための資金はもちろん必要ですが、世界に広げるには、それをPRするため、マーケティングやプロモーションのため、営業のためにも資金は必要になります。

そうして資金を得たら、グローバルで戦える仕組みも揃える必要があります。世界中の誰とでも働ける、ものを作れる、どこにでも売りに行けるようにするためには、その国の人と一緒に働ける共通のツールを使っていることが前提です。そういったツールは、英語のように共通基盤となります。Treasure Dataはアメリカの会社なので、例えばNetSuiteを使って会計システムを作り、Salesforceを使って営業を管理しています。そういうグローバルでみんなが使っているツールを使うことでノウハウを学べ、かついい人材が雇えるようになります。昔は、こういったツールをグローバルで揃えることはスタートアップでは無理でしたが、現在は、世界で戦うためには必要、という考え方もできるくらいの金額になってきました。

–後発のメンタリングプログラムGRASSHOPPERですが、その強みは何でしょうか?「スタートアップ×クリエイティブ」というテーマにポテンシャルを感じますか?

堀内:クリエイティブやブランディングは、スタートアップでは手が回らないこともあると思いますので、とても重要です。それに加えて、やはり電通さんのネットワークから顧客を連れてきてくれるところではないでしょうか? 国内で6,000社、国外で5,000社のグループ関連クライアントがあるようなので。スタートアップのニーズやフェイズに合わせて必要なパートナー、クライアントを見つけてくれるのは本当にありがたいことです。Treasure Data日本法人を立ち上げた時の私の経験でも、優良なお客様を紹介していただけるのは、投資を受けるのと同じくらいありがたいことです。
将来的には「GRASSHOPPERコワーキングスペース」をデザインして 、スタートアップとメンターが集う場所となって、ミートアップイベント、プロモーション動画の収録から配信とかもできれば最高ですね。

自分にしかできないことは必ずある

–さて、ここからはイノベーターとしての堀内さんにお話を聞いていきます。固定観念に囚われず突破した事例、参考となるエピソードを教えてください。

堀内: 同じことを繰り返さないキャリアなので、仕事に対する固定観念は全くないです。というより、固定観念に囚われ周りの目を気にする性格だからこそ、スタートアップとして成功するために、自分の中の固定観念を否定するように努めているとも言えます。イノベーションを起こそうとあがいている自分が、固定観念や過去の成功体験にすがるのはカッコ悪いと思うようにしていたりします。
身近な例でいうと、企業イベントの設計でしょうか。今までは数千人規模のイベントは1年かけて仕込んで、年に1回盛大にやることが通例でした。しかし、変化の早い今、1年かけて仕込んでも翌年には世界が変わっている。世界を変えようとしているのに、今考えていることを来年やるというのではニーズに合いません。時代や顧客のニーズに合わせて、やらなければならない、変わらなければならないと来場者に思わせるような弊社イベント“PLAZMA“を四半期ごとにやっているのはそういった背景があります。
今では、一緒にやりたいといってくださる大手企業の方々や、賛同して毎回協賛してくれるパートナーも見つかって、時に失敗しながらも小さい成果を掴み取っていると実感しています。

–「失敗」の定義について。堀内さんはどの程度の失敗まで許せますか?

堀内:諦めてやめてしまったら失敗ですよね。大切なのは仮説を持って、変化を楽しみながら、行動し続けることだと考えています。仮説を作り目標を作り進み、うまく動かせないときに何が原因でどうしたら改善できるのか常に考えて、次に活かしたいと思っています。目的を考えずに始めたら、それはリカバリーできないから避けたいですね。

–ビジネスモデルや企画を始める時にはどのように作り始めますか?

堀内:情熱をベースに進めています。どうしてもやりたいと思うものに出会えればテーマは決まると思うんです。私は、不自然なことや回りくどいこと、過去の慣習に囚われたルーティーンなどを現代の技術で解決するのが好きなので、そのテーマに寄った内容が多い気がします。

スタートアップは情熱の塊なので、そのビジネスモデルから驚きと感動を覚えることが多々あります。そのような情熱の塊であろうGRASSHOPPERの参加スタートアップを、デジタルトランスフォーメーションの視点を中心に応援したいと考えています。

–現在の堀内さんの立場があるのは、どなたの影響が大きいですか?

堀内:私は、一緒に仕事をさせていただく方、それは上司だったり、顧客だったり、パートナー、同僚に、とてもとても恵まれています。人との関係で悩んだことはほぼなく、皆さん仕事を楽しんでいるイノベーターばかりです。飲み会などでも愚痴をいうより、やりたいこと、やってて楽しいこと、解決するために汗をかき苦労していることを真剣に話している人たちです。
それぞれ天才であり、努力家で、一線で活躍している人なので、彼らの領域ではとてもかなわない。ですから、この人と一緒に仕事をしたいなら、自分の価値は別の領域、方向性で出していかないと価値がないなと。ある意味あきらめ絶望してピボットばかりしています。それでも、自分にしかできないことは必ずあるし、チームで働くことが重要だと思っているので、がんばれているかなと思いますね。

text:西村真里子
edit: 市來孝人