あるべきクリエイターとスタートアップの関係性とは–THE GUILD 深津貴之

2018.11.08

政府による「J-Startup」の始動など、スタートアップ育成の動きが本格化する2018年、日本を代表するメンター陣と電通が支援プログラム「GRASSHOPPER」をスタートさせた。キーワードは、クリエイティブとブランディング。今回話を聞いたのは、当プログラムのメンターの一人、THE GUILDの深津貴之。クリエイターとスタートアップの関係はどうあるべきなのか。デザインの可能性を広げるトップランナーとして活躍を続ける彼の考えに迫った。

クリエイターとスタートアップは、センスよりも関係性

–クリエイターは、スタートアップにどのような貢献ができますか?

深津:クリエイティブとは何か?によると思います。貢献するためにはメンターである僕らの側が、まず「そのスタートアップにとって、機能するクリエイティブは何か?」を定義する、見つける必要があります。

最近のスタートアップ業界を見ていると、機能しないクリエイティブに巻き込まれているケースが見受けられます。何億円も使ってすごいクリエイティブディレクターが自分の作りたいようにCMを作り、全然ダウンロードにつながらなかったり、全くトラクションを稼げないキャッチコピーを大物クリエイターが作ったからと採用してしまったりとか。

ゴールにつながらない“クリエイティブのエゴ”は逆にスタートアップのグロースを止めてしまいます。目的地に着くことが前提のクリエイティブを考えられるかどうかが大事です。
そのため、時にクリエイティブにブレーキをかけることもしなくてはなりません。これらが、クリエイター側からスタートアップをアクセラレーションする時に考えなければいけない大事な視点になります。

–一言に「クリエイティブ」と言っても、スタートアップごとの状況によると。

深津:そうです。クリエイティブのプロフェッショナルたちが、スタートアップの状況に合わせて彼らに必要なクリエイティブを提供していくことが大事です。

例えばですが、スタートアップによってはすごい名刺を作ることで会える人が増えてグロースにつながるケースもあれば、名刺なんか全然必要ないスタートアップもいます。ランディングページも動画もそうです。バランスを考えて適切なクリエイティブを提供するのが肝心です。
広告だと1ピクセルまで丁寧に計算してピシッと合わせる必要がありますが、スタートアップのヘルプページにそのクオリティを求める必要があるのか?一時のトラクションを稼ぐため、商品写真にタレントを使うケースもあるかもしれないが、契約期限があるタレントに数千万円使うのがよいのか?など、状況判断が必要になります。

–クリエイター側に、もしくはスタートアップ側にどのようなセンスが求められるのでしょうか?

深津:センスよりも関係性です。受託で1個作って納品して解散というマインドだと長期的なものを考えられなくなります。毎回派手なものを作って次の受注につなげようとしてしまいます。その場かぎりの派手さではなく、長期的につながることを考えるべきです。

–スタートアップにはクリエイティブの効果をどのように伝えていますか?

深津: というか、むしろクリエイティブの効果の話しかしていないです。ここでいうクリエイティブとは広告でいうところのクリエイティビティではなく、ビジネスクリエイションを一緒に行うことを意識しています。スタートアップのフェーズやニーズに合わせて効果あるクリエイティブ要素を提供するためのものです。

–GRASSHOPPERではどういったスタートアップに参加してほしいですか?

深津:「社長がプロダクトにコミットするタイプ」をメンタリングしていきたいです。「社長が数字しか見ていないところ」は僕の守備範囲外です。

ビジネス立ち上げ時。そこからデザイナーが入っているべき

–ここからは、時代が変わっても常にトップランナーとして走り続けている深津さん自身にフォーカスします。創業当時から現在まで、仕事の中身はどのように変わっていますか?

深津:THE GUILDは現在6年目のデザイン会社なのですが、表層のデザインだけではなく、プロダクトそのものの意味を一緒に考えたり、数年後どこを目指しているのかという長期ビジョンを見据えて一緒に進めることが増えてきました。

–なぜそうなってきたのですか?

深津:画面だけ直しても、たどり着きたいところには着かないと、クライアント側も気づき始めたからでしょうか。
少しずつ、デザイナーやクリエイターがビジネスの上流工程に入り込めてきていますが、まだまだ日本では少ないですよね。Airbnbなどは創業者がデザイナーだったりしますが、そのような事例がもっと増えてほしいと思っています。ビジネスを立ち上げる時に最初からデザイナーが入っているべきです。

日本のスタートアップや新規ビジネスは「これは人間が使うものなのか?人間が必要としているのか?」というユーザーの視点を考えないで走り出すことが多いのも問題です。これはスタートアップ側もそうですし、クリエイター側も、機能しないクリエイティブ・楽しいだけのクリエイティブを卒業しなければいけないと考えています。

後戻りのできる失敗は全部やっていい

–深津さんは現在、社会における「自分の価値」をどのように考えていますか?

深津:クライアントが持てない視点と判断を、第三者視点で下すことができるのが価値だと考えています。言い換えると「クビになる権利を持っている」関係者の強みと言ってもいいでしょう。これは大手のコンサルティングとかではできない判断だと思います。例えば3億円でとったプロジェクトを、大手コンサルのメンバーは自分の判断で止めることができないですが、僕は正しくないと思ったら止めることができます。

–固定観念に囚われず突破した事例、参考にできるエピソードを教えてください。

深津:正しいと思うことを2年でも3年でも諦めずに言い続け、大手クライアントのサービスを変更した事例を持っています。大きい会社は判断に忖度が入るので、先回りしてブレーキを踏ませないようにするのが大事だと考えています。

–「失敗」の定義。深津さんはどこまで失敗を許せますか?

深津:後戻りのできる失敗は全部やっていいと思っています。また、ストックされる失敗は失敗ではないと考えています。わかりやすい例でいうと、プロトタイプを3本作って全部採用されなかったのはストック型の失敗、寝坊して打ち合わせをすっぽかしたとかはストックされない失敗です。

–深津さんはビジネルモデルや企画を作る時にはどのように作り始めますか?

深津:大きくは、インターネット・テクノロジーの大きな流れに逆らっていないかどうかを考えながら企画します。時間軸でいうと、だいたい5年くらい先を見て考えていますね。その視点で無くなるものと無くならないものを考えていくことも多いです。

例えばカメラなら、ソフトウェアに行く方向は流れに乗っているけど、物理世界のカメラを大幅に増やそうとするのはどうかと思っています。一人一台、みんなが一眼レフを買うためのアプリとかWebサービスを作るのは流れに逆らっていますよね。
あとは、「まだみんなが想定していないAIの使い方があるのではないか?」など、新たなインターネット・テクノロジーの使い方を考えていくこともあります。

いずれにせよ、“突飛なアイデア”を最初から考えるのではなく、一回突き詰めてじっくりと考えていき、結果として誰も出してないアイデアにたどり着くということが多いです。

text:西村真里子
edit: 市來孝人