広告賞を目指すクリエイティブはスタートアップには不要–Bloom&Co. 彌野泰弘

2018.11.15

政府による「J-Startup」の始動など、スタートアップ育成の動きが本格化している2018年、日本を代表するメンター陣と電通が支援プログラム「GRASSHOPPER」をスタートさせた。キーワードは、クリエイティブとブランディング。今回話を聞いたのは、当プログラムのメンターの一人、Bloom&Co. 代表取締役 彌野泰弘。ナショナルクライアントからスタートアップまで様々な企業のマーケティングやブランディングを支援する彼に、「スタートアップ×クリエイティブ」のあるべき関係性を尋ねた。

GRASSHOPPERの価値はズバリ、電通を介したビジネスデベロップメントによるグロース

-まず、当アクセラレータープログラムの意義について。後発のGRASSHOPPERが目指すべきは、どのようなスタートアップ支援だと考えますか?

彌野:すでに世の中に、あまたデモデイやアクセラレーターがあるため、後発であればあるほど、特徴や強みが明確になっている必要があります。

そうした中で、他が真似できないGRASSHOPPERの独自価値は、日本最大の広告会社である電通らしさを最大限に活かした施策です。一つには、日本中の大企業・経営者とつながっているからこそ実現できるビジネスデベロップメント。スタートアップの斬新なアイデアやテクノロジーを、それを求める会社とつなぐことでグロースを加速させること、これに尽きます。そしてもう一つ、その先のステップとして、体力のついたスタートアップにさらなるグロースが必要な場合にマス広告の支援をすること。このビジネスデベロップメント→マスプロモーションという2段階のサポートが他の支援プログラムにはないバリューとなり、一線を画すことができると考えます。

「面白くてインパクトのあるクリエイティブ」なんかいらない

-これまで多くのスタートアップのマーケティングやブランド戦略策定に携わってきた彌野さんは、「スタートアップ×クリエイティブ」というテーマにどのようなポテンシャルを感じていますか?

彌野:クリエイティブ自体が持つポテンシャルが非常に大きいのは間違いないですが、クリエイティブによってスタートアップの事業の成長が後押しできるかは、半分イエスであり、半分ノーだと考えます。これは、そのサービスにとってクリエイティブがビジネスドライバーかどうか、またグロースに必要なクリエイティビティというのが何のクリエイティビティなのかによります。従来のマス広告のように、面白くてインパクトあるクリエイティブをスタートアップに注入できればグロースするという考えだとすると、間違いなく失敗します。

かつての広告クリエイティブでは、似たような商品が溢れかえる消費材(飲料や洗剤など)市場において、「商品の名前を刷り込み、記憶に残し、お店で見たときに思い出してもらうために、いかに記憶に残りやすいインパクトを作り出すか?」が最重要課題でした。当時はそこにクリエイターの技術=クリエイティビティが注がれてきたし、クリエイターの評価軸でした。しかし、スタートアップの場合、そもそもそのサービス自体が世の中にまだないものであるケースが多いため、サービスの存在を覚えてもらうことよりも、限られた広告枠(例えば15秒)の中で「そのサービスの必要性を伝えることができるか?」が、必要なクリエイティビティなんです。そこに広告賞を目指すようなクリエイティブは不要です。

-確かにスタートアップのCMを見ていると、余分なエンターテインメント性が商品やサービスの特徴を理解しづらくしているケースは少なからずありますよね。クリエイティブサポートする側が、自分のやりたいことファーストになってしまうとミスマッチが起こるということですね。

彌野:スタートアップに必要なことは「時間のショートカット」と「成長」です。最短時間で成長するために、貴重な時間をこのプログラムに割くのだからこそ、無駄な時間を1秒たりとも生み出すべきではないと考えます。
メンターの独自判断でメンタリングしたいことを一方的に熱弁するのではなく、「スタートアップが何を求めているか?」という一点にフォーカスできるかどうか。ここに、GRASSHOPPERの成功がかかっていると思います。

大企業とスタートアップ、それぞれのマーケティングを知ることで生まれる可能性

-ここからは、彌野さん自身の話を聞かせてください。今の時代における、彌野さんの価値とはズバリ何だと思いますか?

彌野:自分たちの価値というよりは、自分たちが価値にしなければならないと思っているのは、やはり20年近くやってきている実務者としてのコンシュマーマーケティングの経験値です。P&G時代の9年間で3ブランド、DeNA時代に3年間で30近くのサービスやプロダクト、過去3年で約60の商品やサービスと、合計で約100件のマーケティングやブランディングを担当してきました。また、カテゴリーも国も事業や会社のサイズもバラバラな案件を経験しているので、その多様性による複眼的な視点は強みだと思います。テレビCMにおいてもアプリだけで100本以上、パフォーマンスにフォーカスした制作をリードしてきました。

トラディショナルな大企業のマーケティングとスタートアップのデジタルマーケティングの両面が分かることも我々のユニークな点だと思います。さらに昨今でいうと反対に、大企業に求められるのがトラディショナルなマスマーケティング一辺倒からのデジタルシフトで、成長したスタートアップに求められるのは一気に成長を加速させるマスマーケティングだったりします。その際も両面を支援していることで双方のニーズや課題、話法が理解できるので、それぞれに必要な価値を提供することができます。また、大企業とスタートアップのアライアンスにおいても、両方を知っているからこそ懸け橋としての価値を発揮しやすく、そういったケースも増えていきています。

-スタートアップと大企業の懸け橋ということでは、冒頭に出たGRASSHOPPERの価値の話にもつながりますね。

彌野:まさにそうですね。また、ユニークな価値というところでいうと、新しい流れがもう一つあります。弊社社員は7割くらいが外資企業出身(主にP&G)です。英語で、外資文脈でのマーケティング戦略策定と実行リードのできる人間が多いので、海外のユニコーン企業の日本進出をサポートしています。日本はデジタル産業でいうと世界3位に入るような大きな市場であり、海外企業にとっても魅力ある市場なのです。そんな中、日本は欧米と比較して完全に別世界ということもあり、グローバルブランドを維持しながらも適切なローカライズ戦略を構築する力が求められています。これからは、日本企業・海外企業は関係なく「ユーザーや消費者にとって、一番良いもの」を、それを必要とする人に届けていくことが大切だと思います。

-彌野さんの「失敗の定義」についても、教えてください。

彌野:シンプルに三つです。ダメな失敗は、「死ぬ(=会社や事業が終わってしまう)失敗」と、「誰かに多大な迷惑をかける失敗」と、「学ぶことがない失敗」、この三つです。あとはどんな失敗もOKです。むしろその三つ以外の失敗は全てラーニングとして重要になります。経験や知見をフルに生かしても、事業は100%成功するものではないので、その確率を40%→60%→80%と100%に近づけていくのがマーケティングの専門家の役割だと思っています。

-現在の彌野さんの立場があるのは、誰の影響が大きいですか?

彌野:この人一人という人はいなくて、過去に関わったたくさんの人ですね。僕は、活字を読むのがとても苦手なので、読書から情報や刺激を得ることがほぼないんです。その代わり人との会話で情報や刺激を得ることが多く、毎晩、違う人と会食して様々なことを話すようにしています。また、過去の上司や先輩に教わって生かしていることは非常に多いですし、社内のメンバーやチームを組むパートナーのメンバー、支援しているスタートアップのメンバーからも常に刺激をもらっています。

text:長島龍大
edit: 西村真里子、市來孝人