ホームセキュリティをデザインの力でどう変える?「目指すのは、防犯界のダイソン」Strobo 業天亮人

2018.12.25

電通と多彩なメンター陣による、スタートアップ支援プログラム「GRASSHOPPER」。キーワードに“クリエイティブとブランディング”を掲げ、現在、メンタリングを行う企業を選定中だ。

一方、当サイトではクリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材を実施。スタートアップとクリエイティブの関係性について探っていく。今回は、「日本発の次世代の家電メーカーをつくりたい。」と東京大学工学部在学時代に、仲間とともに手がけたIoT製品を皮切りに、家の中でのライフスタイルをアップデートするさまざまなプロダクトに挑戦してきたStrobo(ストロボ)代表・業天亮人。

彼が辿り着いたのは「ホームセキュリティ」。ミニマルでスタイリッシュな見た目やスマホを通じた通知機能など、あらゆる点において、従来の防犯グッズの常識を覆されるスマートホームセキュリティ『leafee』、その開発のキーとなったのはプロダクトや体験面の「デザイン」だと語る業天氏。人の暮らしに溶け込み、より多くの人に愛される防犯プロダクトに必要なデザイン力について聞いた。

作りたいのは「明日の暮らしの一部になるIoT製品」

―はじめに、業天さんが「IoT」という分野で起業をされたきっかけを教えてください。

業天:過去に、家庭向けのIoT製品を作る会社を二度起業しています。最初の起業は2011年で、iPhoneで家電が操作できるというプロダクトを製造・販売していて。そのきっかけは、自分の部屋の中にたくさんリモコンが並ぶのが嫌で、iPhoneひとつで操作できたらいいなと思い立ったのがはじまりです。以前から家電やインテリアなど、家の中の空間に興味があったんです。なので「起業したい!」というよりは、自分が考えたライフスタイルを他の人にも体験してもらいたいというのが起業の原動力になりました。

―これまでもさまざまな家庭内IoT製品を手がけられている中で、防犯分野に挑戦しようと思ったきっかけは何だったのでしょうか。

業天:これも自分の体験なのですが、社内のメンバーで次に作るものを議論している時に、家の窓の開けっ放しを妻に怒られたのがきっかけです。「防犯」は、全ての人に共通する課題で、人の暮らしに高い頻度で登場する心配事です。「生活習慣に取り入れられるIoT製品を作りたい」というのがストロボの理念だったので、この分野であれば自分たちの技術で解決できると思い、防犯にフォーカスしました。

ストロボは「デザイン」の力で防犯界のダイソンを目指す

―防犯製品は、すべての人をターゲットにしたプロダクトだと思います。ひとりでも多くの人に使ってもらうため「デザイン」の重要性をどのように考えられていますか?

業天:プロダクト・ユーザー体験・コミュニケーションそれぞれで、デザインの重要性は強く感じています。まずプロダクト面だと、ホームセンターの防犯グッズコーナーに行くとよくわかるのですが、赤文字で「大音量ブザー」と書かれているものばかりで、ある種のインテリアなのにも関わらず、デザインが洗練されているものが少ないんですよね。なので、恐怖訴求的ではなく、スタイリッシュでインテリア性の高いものを作るということがストロボのひとつのテーマです。防犯領域ではプロダクトデザインが意識されていないからこそ、取り組む意義があると考えています。

―ユーザー体験面でのデザインはいかがですか?

業天:ストロボは、ソフトウェア上でのユーザー体験にこだわっています。僕たちのプロダクトはセンサーで家の中の不安を発見するものなので、ハードウェア単体ではなくスマホアプリ上の体験をデザインすることにより、防犯を人々が仕方なく付き合うものから身近で明るいものにしたいと考えています。

その点で、ダイソンは強く尊敬しているブランドのひとつです。それまで掃除機は、誰もが毎日使うものにもかかわらず、プロダクトデザインもユーザー体験もこだわられていなかったんです。そこでダイソンが「紙パックを触りたくない」「吸引力が落ちるとイライラする」といった負を解消するユーザー体験のデザインから始まり、本体のプロダクトデザインにこだわることでスターに躍り出ました。同じように課題を抱えている防犯の分野に「デザイン」の視点を取り入れることで、『leafee』も防犯界のダイソンになれるのでは、と思っています。

―現在手がけられている新製品について教えてください。

業天:12月25日にleafee製品のスマートホームハブである『leafee hub』の新モデルを発売します。既存の『leafee hub』から新しくなった点として、ひとつはデザインを一新しました。警報ブザーを感じさせない、空間に馴染むようなインテリアを意識したデザインが特徴です。ふたつめに、大きなアップデート点として、ブザー・スピーカー機能を搭載することで、異常を検知した時にスマホに通知するだけでなく、警報音を鳴らしたり、音声表現が可能になりました。また、このスピーカー機能は今後アップデートしていく予定で、緊急時の保険としてだけではなく、日常のちょっとした不安や危険回避にアラートを出せるスマートスピーカーとしても使っていただければと思います。たとえば、「冷蔵庫が空いたままです」「赤ちゃんが風呂場に入ってしまいました」のようなアラートを出せるイメージです。



「多くのヒット商品」よりも「ずっと使い続けたいプロダクト」をつくるのがストロボ流

―業天さんが、企画や開発の過程で一番時間をかけるのはどのフェーズですか?

業天:アプリやWebサービスと違って、App Storeに置けばお客さんに届くものではないので、ユーザーに届けるまでのジャーニーの形成や販路開拓に一番時間をかけます。いざ販売をしてみると、メーカーとお客さんの距離は想像している以上に遠くて。どう届けるか・どう買ってもらうかを、緻密に作りこんでいます。多くのステークホルダーが関わる話なので、上手くいかないことも多々あるので、いくつも届け方・売り方を考えるようにしています。

たとえば『leafee』は、賃貸に暮らす独り暮らしの人も後付けできるセキュリティシステムというコンセプトで作ったのですが、実際の購入は一軒家や家族世帯が多かったんです。そこで、賃貸の人が最も防犯を意識するタイミングを「家選びをする時」と仮定し、現在不動産会社と組んでプロモーションをしています。モノを作るだけでなく、どう届けるかを考えることに時間をかけるようにしています。

―学生時代から2度の起業を経験されていますが、業天さんにとっての「失敗」の定義はありますか?

業天:「使ってくれるユーザーがいる限り、そのプロダクトは失敗していない」というのがポリシーです。数字が伸びなかったとしても失敗と諦めるのではなく、プロモーションやコミュニケーションを改善するなど、伸びしろはいくらでもあると考えるようにしています。

短期的な売上を上げる方法は、広告を打つなどたくさん方法はあると思いますが、ストロボは長期視点で、ひとつのプロダクトを長く使ってもらうことを大切にしています。大手の家電メーカーの多くが、ワンシーズンの間にヒット商品で得た資金を、次のシーズンのヒット商品に投資するというビジネスモデルだと思います。一方ストロボでは、ひとつのプロダクトを継続利用してもらえるように、課金モデルを採用し、そこでいただいた対価によってソフトウェア、つまりユーザー体験を日々より良いものしていくという仕組みをとっています。

―業天さん・ストロボとしての今後の「野望」を教えてください。

業天:国内で家庭向けにIoT製品を作っている会社は、ベンチャー企業でもごくわずかです。短期的に儲からなかったり、Webサービスなどと比べるとやらなければならないことが多いので、好きではないとやりきれない領域だからです。

一方世界を見ると、フランスや中国を筆頭に、家庭向けIoT製品で名をあげる企業が出てきています。ストロボは、スマホやネットが普及した今だからこそできる、ソフトウェア体験にこだわる日本発のIoTブランドとして成長していきたいです。

Interview & Text:長谷川きなみ
Edit:市來孝人