「属性の組み合わせ」が人の価値を上げる時代の生き方とは?草野絵美(Satellite Young)に聞く

2018.12.11

90年代生まれ80年代育ちー。アメリカのレーベルで音源をリリースし、2017年のSXSWでライブを披露するなど、世界に向けて独自の音楽を発信し続ける歌謡エレクトロユニット「Satellite Young」。80年代スタイルに身を包み、レトロフューチャーな音楽に乗せて、最先端のテクノロジーについての違和感と愛を歌うのは草野絵美。

そんなアーティスト・草野の驚くべきは、20代にして起業・一児の母・アーティスト・広告代理店勤務の経験を持つという異例のキャリアにある。さらに音楽活動の他にもBS・オンライン番組「SENSORS」のMCや、目薬「サンテPC」のTV CM出演など活動の幅を広げている。まさにGRASSHOPPERとしてジャンプアップし続ける彼女。多くの引き出し・肩書きを持つ生き方は、これからの時代、どのように活きていくのだろうか。

「この人に頼みたい」と思ってもらえることを目指す

―まず、学生時代にSatellite Youngとして、アーティスト活動を始めたきっかけを教えてください。

草野:両親がアーティストだったという影響もあり、昔からものづくりが好きで、小学生の頃から描いた絵や撮った写真を自作のホームページにアップしたりしていました。ある時から両親に対する反面教師的な感情があって、作る側よりプロデュース側に行きたいと思い、美大ではなくSFC(慶應大湘南藤沢キャンパス)に行って、起業もし、広告代理店にも入社しました。当初はクリエイターさんを応援したり、プロデュースすることが得意だと思っていたのですが、最終的には自分の頭の中にあるものを形にしたいと思い、転身を決心しました。

入社後も並行して活動を続けてきたSatellite YoungのレトロSF的なインスピレーションは、私自身が子どもの頃から昭和歌謡やアイドル歌謡、80年代のファッションなど、自分の生まれる以前のカルチャーにすごく惹かれる部分があったことから来ています。80年代の文脈に乗せて、日々自分が感じるテクノロジーへの愛憎について語る曲を作って、歌っています。

―大学卒業後は広告代理店に勤務していた草野さんですが、それまでの仕事を辞めて、アーティストとして表現する側に専念することに不安はありませんでしたか?

草野:決心できた理由のひとつには、その当時、子育て・代理店での仕事・アーティスト活動の3つを両立するのが難しかったことがあります。子どもが寝静まった22時以降に作曲をしていることもありました…。

もうひとつは、代理店で働いている中で、頼む側より頼まれる側になりたいと思ったのがきっかけです。学生時代にSatellite Youngの活動を始めて、インタビューを受けたりラジオに出演したりしていて、代理店入社後も、個人として講演に出たり、司会をするなど人前で話す機会があって、自分自身で影響力を持って仕事にしていくことにやりがいを感じる瞬間が多くあったんです。それに、代理店という個人のクリエイターやアーティストさんに頼む側の仕事をしている中で、今の時代、自分の好きなことを磨いたり、専門性を発信し続ければ、ある程度フォロワーがついてきちんと仕事になることに気づかせてもらって。この人に音楽を頼みたい、アートワークを頼みたいと思ってもらえる側になりたいという強い想いがきっかけになったんだと思います。

あとは、髪を青く染めて会社で悪目立ちしちゃったのもありますかね(笑)。会社より原宿にいる方が、居心地がいいなと感じていたので、フリーの方が向いているかなと。

やりたいことを狭めるのではなく、スペシャリティを持つゼネラリストを目指す

―現在はアーティストとして活動されている草野さんですが、日々実に幅広い場所で活躍されている印象があります。近年よく話題に上がる「ゼネラリストであるべきかスペシャリストであるべきか」という議論についてどう思われますか?

草野:最近は思うのは、「ひとつのスペシャリティーを持ったゼネラリスト」がいいなと。落合陽一さんが代表例だと思うのですが、ひとつの秀でたものが多方面に触手のように伸びていて、様々なことをやっているイメージです。自分も飽き性なので、歌もアートも写真もやるのですが、大切にしているのは、作り終わったそれぞれの作品から「草野絵美っぽい」というブレない作家性を出すことです。今はいろいろな人と繋がってコラボレーションしやすい時代だったり、テクノロジーが代替してくれる作業も増えているからこそ、やりたいことを狭めるのではなく、スペシャリティを持つゼネラリストを目指すのがベストだと感じています。

―音楽やアート作品などアウトプットが多岐にわたる中で、どれにも共通する「草野絵美らしさ」があるということでしょうか?

草野:タレント活動はそうなんですが、作品に関しては『私らしさ』というと違和感を感じます。しかし、何を作っても世界観は近いものになってしまうかもしれません。今年2月に開催されたアートのハッカソン「Art Hack Day」で作ったものも、もし80年代のカラオケマシーンに人工生命が入ったらというコンセプトの作品は、コンセプトを考える段階で『先端技術』×『レトロフューチャー』で Satellite Youngっぽいになったと思います。チームで作ったので、自分の作家性を残そうという意図はなかったのですが、最終的なアウトプットがそうなりました。

私のインスピレーションは、SF映画やアニメ、新書や論文などが多いです。最近だと「中国でゲノム編集した赤ちゃんが生まれた」と言ったディストピアなニュースを聞いて、そこから歌を作るなど、現代のテクノロジーを80年代〜90年代にタイムスリップして少し先の未来として見据えています。私の場合は、作品のインスピレーションが限定的なんです。そのため、アウトプットの形が違っても、毎度共通する世界観が「作家性」として現れるような気がします。

―肩書きの話に戻りますが、多くの肩書きを持つことの産物はなんですか?

草野: 肩書きは、あまりにも多すぎるのは良くないですが、2~3つくらいはあったほうがむしろいいと思います。というのも、今の若者が注目される理由は「レア度」だと思っていて。昔だったら、雑誌の表紙になるとかテレビで一番人気の番組に出ることが注目されるきっかけでしたが、今はその注目度を評価するのが難しい時代になってきています。InstagramやYouTubeでたくさんのフォロワーがいても、知らない人は知らないし、有名度の順位付けもできないですよね。そんな時代に人を面白くさせるのは「属性の組みあわせ」です。たとえば、お医者さんなのにヨガインストラクターだったら珍しいし面白いですよね。ありがたいことに、草野絵美を面白がってくれるの方がいるのは、誰とも似てない属性の組み合わせがあるからだと思っています。大学時代に出産をしているなど、ライフイベントやこれまでの経験が結果的に人と被らない個性になっていると感じますね。

私は今「アーティスト」としていますが、自分の中ではまだしっくりきていません。たとえば、市原えつこさんの肩書きは「妄想インベンター/メディアアーティスト」なのですが、一般的な肩書きとユニークな肩書きの組み合わせをもつことがおすすめです。

次のチャンスを生むのは、自らの名前を想起してもらうこと

―最近「モチベーション格差」という言葉をよく耳にします。日々業界も分野を超えて、新しいことに挑戦し続ける草野さんのモチベーションの源泉はどこにあるのでしょうか?

草野:「こんなことあったら面白くない?」という初期衝動がすべてです。好奇心が旺盛なことが一番ですね。ただモチベーションは、付き合う人や環境で大きく変わりますし、波があるものだと思っています。私もまったくアドレナリンが出なくて困る日もあります。ただ常に、「インプットしたらアウトプットしなくちゃ!」という切迫感はありますね。

特に学生時代は常に外に出て、できるだけ多くの人に出会うようにしていたので、今の仕事に活きている出会いはほとんどが学生時代のものだったりします。ただ、繋がりを持てる人の数は限られているので、今はたくさんの出会いを求めて外に出て行くというよりは、今持っているつながりを保ち続けられることを大事にしています。

―人との出会いを大切にされているとのことですが、その出会いを次のチャンスやきっかけに変える秘訣はありますか?

草野:何かしらの側面で「草野絵美」を思い出してもらうことです。たとえば「テクノロジーについて詳しい喋れる人」として、テック系の番組のMCに呼んでもらえたり、「ポップなファッションの人」としてTVCMのお仕事をいただいたり、候補者リストのファイルの中で目立つような印象を作ることが大事だと思います。自分の意見を発信していくにしても、作品づくりにしても、ファッションにしても、その人らしさを発信し続けることが、次のオファーに繋がると思います。

―今後の”野望”を教えてください。

草野:Satellite Youngの曲は、北アメリカ・ヨーロッパを中心に世界中の人に聴いてもらっています。今後も自身の「作家性」を貫きながら、楽曲作りだけでなく、アート作品にも挑戦し、日本にとどまらず世界に向けて発信していきたいです。また、自分ひとりではできないことをやり切れる集団も作りたいと思っています。

text:長谷川きなみ
edit: 市來孝人