「デザイナーではない人にこそ、発想のタネがある。」エムテド・田子學が語るデザインマネジメント

2018.12.03

電通と多彩なメンター陣による、スタートアップ支援プログラム「GRASSHOPPER」。キーワードに“クリエイティブとブランディング”を掲げ、現在、メンタリングを行う企業を選定中だ。

一方、当サイトではクリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへ取材し、記事を公開していく。今回は、デザインマネジメント領域で日本を代表するエムテド代表・田子學に、ビジネスにおける「デザイン」の考え方やその定義について聞く。スタートアップが自らの事業をどうデザインしていくべきか、そのヒントになるだろう。

目に見えない部分こそ、デザインで解決できるポテンシャル。

―はじめに、田子さんがデザインマネジメントを軸とするまでの背景を教えてください。

田子:もともと東芝でtoC向けのプロダクトデザインをやっていました。色々手がけていくうちに、人が本当に求めているのは、機能やスペックだけではなくプロダクトを通じて伝わる思いやストーリーだと感じ、それらをよりダイレクトに伝えることにチャレンジしたいと独立しました。

目に見えるプロダクト以外の領域にも仕事を広げていったことで、目に見えないサービスやコミュニケーションといった、もっと根幹の部分をデザインすることの価値を実感しました。人の感情を揺さぶるフックが生まれ、そのプロダクトがもつストーリーがダイレクトに伝われば、結果、企業の価値も伝わっていきます。BtoCだけでなく、BtoBにも、BtoGにも、あらゆるプロセスの中に、デザインで解決すべき課題が数多くあることに気づいたんです。

―ビジネスにおけるクリエイティブのポテンシャルについて。BtoB領域でのデザインマネジメントの実例を挙げてください。

田子:三井化学の場合を紹介します。化学メーカーは素材のスペックや技術の勝負になるがゆえに、「三井化学って他とは何が違うのか?三井化学にしかできないものは何か?」といった、企業のアイデンティティに対する問いが長く存在していました。

そこで私たちからは、「世界中の化学メーカーが数値だけを目標にしているのであれば、逆に数値では測れないものを武器にするべきではないだろうか?」という投げかけをしたんです。それがきっかけとなり、人の五感や感性を起点に素材の魅力を再発見するプロジェクト「そざいの魅力ラボ」( Mitsui Chemicals Material Oriented Laboratory: “MOLp™” )が立ち上がりました。

このプロジェクトを通して、物性だけを追い続けてきた化学者たちの頭がだんだん柔らかくなっていき、自ら発想し、今までにない素材や特許が開発されるようになっていきました。もっとも驚いたのが、とある研究員の「三井化学はプラスチックが得意だけど、プラスチック食器で食べるご飯って陶器に比べておいしくないと思う」という言葉。プラスチックは基本的には「軽くて安くて壊れにくい」という利点のある半面、「便利だけど安っぽい素材」というイメージがついてしまっていました。この研究者の気づきを入り口に、従来のプラスチックのイメージを覆すような、重さや熱の伝わり方など、ご飯が美味しく感じられるプラスチックをつくることができれば新しいチャレンジになるのでは?という発想から、三井化学の技術を駆使して生まれたのが、「海のミネラルでつくられたイノベーティブプラスチック」です。感性という、これまでとは全く違う入り口でプロダクトが作られたので、そこにストーリーが生まれ、化学素材という馴染みないものに人が興味を持ち、共感していただくことができました。

―デザイナーだけではなく、誰しもがデザインの根源となる発想を持っているんですね。

田子:そうなんです。なので、そういった誰もがもつ感情のフックにつながる気づきを引き出したり、組織に発想のきっかけをつくりだす方向性を示すことこそデザインマネジメントなんです。よく「売れない」という漠然とした相談を受けるんですが、それは、自分たちのプロダクトやサービス、組織のポテンシャルに気がついていないだけです。ですから、僕の仕事は、プロダクトやサービスや組織に眠っているポテンシャルを見つけ、時代に合わせてチューニングし、視点をずらしてあげるといった再構築・再編集だと思っています。いろいろな業界や領域が行き詰まっているといわれる世の中ですが、全部にチューニングのポテンシャルがあるということでいうと、僕には宝の山に見えていたりもしています。

デザインで大切なのは「対話」。

―パートナーのビジネスのポテンシャルを見極め、再構築するときに気をつけているのは?

田子:客観性をもってポテンシャルを見定めることです。「温かみを感じるプラスチック」もそうですが、既存の概念や常識からできるだけ入り口を大きく変えることを心がけています。例えば、我々がクリエイティブディレクションをしてブランドを立ち上げた山梨のワイナリー「MGVs(マグヴィス)」。この仕事はもともと、半導体加工メーカーが新規事業に取り掛かるということで、既存建屋のリノベーションの相談からはじまりました。どうして半導体メーカーがワイン醸造を?と思うかもしれませんが、国内の半導体事業が海外メーカーと比べて劣勢になっていく中、事業転換の方向性を模索していた背景がありました。社長は色々な事業を検討されたそうですが、半導体の加工に必要なクリーンな製造環境が、美味しいワインを作るのに必要な醸造環境と合致していることから、企業のアセットを活かしながら、ワイナリーに変えるという大幅な事業転換に踏み切ったんです。

結果、他のワイナリーにはない高品質のワイン醸造環境が実現できたのと、そのユニークさを活かしてブランドを立ち上げることができ、ワイン業界や愛好家にも注目されることとなりました。今までの慣習や概念を変えたいのであれば、やみくもに目新しさだけを追い求めてもうまくいきません。もともと持っているポテンシャルや周辺環境を活かしながら、ダイナミックに再構築することが、イノベーションを生み出すポイントだと考えます。

―様々な仕事の中で、田子さんならではの発想や企画の型などはありますか?

田子:よく、「デザインマネジメントを体系化し、プランとして使い回せるようにしないか?」と言われたりしますが、デザインマネジメントは何かを生み出す発想法ではありません。デザインマネジメントをする上で重要だと思っていることは、パートナーと対話やヒアリングを繰り返すことです。

どの業界も、パートナー1社ずつ、置かれている環境や背景や課題が全く異なります。1つ1つのパートナーとがっつり向き合い、対話し、その相手のポテンシャルやチャンスを地道に見つけ出すことが大切だと思っています。そのぶん時間はかかりますが、相手に直接会い、対話し、自分の目で見ることで気づく発見はたくさんあります。共通のルールや法則がないので、毎回たどり着く答えも違って新しいものが生まれるのだと思います。

―現在の田子さんの立場があるのはどなたの影響が大きいですか?どのようにして今の立場を作ってきましたか?

田子:ちょっと遠い人になってしまうんですが、ダ・ヴィンチですね。時代性も違うし、当然、会ったこともないんですが、デザイナーでもある彼がやってきたことこそ、現代であればスラッシャーですよね。医学から科学から美術からあらゆることに手を出し、究極まで極め理解し、それぞれが全てつながっていると思うんです。デザイナーは色々なことが分かっていないと対応力がなくなってしまうので、自分たちもダ・ヴィンチのようないろんな領域に精通する存在であるべきだと思っています。

―今後の展望を教えてください。

田子:日本はものづくりがうまいからこそ、そのうまさをチューニングし、違う方向に持っていくことで、新たな雇用や産業が生まれる可能性があると思っています。そのポテンシャルがまだまだあるので、できるだけ他のデザイナーがやっていない領域で、誰もがやったことがない新しいものを生み出し、課題解決をしていきたいと思っています。僕は、アーティストではなくデザイナーです。自分ではなく、チーム、組織、地域、ひいては日本の価値としてどう動けるかを追求することで、日本を盛り立てていきたいです。

text:長島龍大
edit:西村真里子、市來孝人