アートとサイエンスの融合がこれからの経営には必要–リバネス 丸幸弘

2018.12.13

電通と多彩なメンター陣による、スタートアップ支援プログラム「GRASSHOPPER」。キーワードに“クリエイティブとブランディング”を掲げ、現在、メンタリングを行う企業を選定中だ。

一方、当サイトではクリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材を実施。スタートアップとクリエイティブの関係性について探っていく。今回は、サイエンス・研究者発の“ディープテック”をフィールドにビジネスを創造するリバネス /リアルテックファンドの丸幸弘に、日本のディープテック領域におけるスタートアップ動向、日本のサイエンスの動向から見た「クリエイティブ」の可能性について聞いた。

クリエイティブとディープテックがうまく融合した事例は

–まずは丸さんから見て、ディープテック分野で「クリエイティブを支援する」ことの可能性を、どのように考えますか?

丸:物凄くニーズはあると思います。ただいくつか現時点で課題があるので、そこがクリアされればいいと思っています。

まず、クリエイティブ支援の座組み。現時点では一流のクリエイティブに入ってもらおうとすると見積もりからスタートする受発注の関係になってしまいますが、最初から一緒にビジネスをすることを視野に、成長に合わせてレベニューシェアしていくような座組みを作れれば。

具体的な例でいうと、ビジネスモデルがイメージしづらいディープテック分野のスタートアップがシード・アーリー段階で資金調達を行うためには、ビジョンを共有するための3分程度の動画が日本語と英語それぞれに必要なのですが、その動画を作るのに数百万、数千万円の資金を準備しなければいけなくて、その制作費が払えない。最初からスタートアップとレベニューシェアを見越した分割払いを良しとするクリエイティブ支援があれば、と思っています。

しかもディープテック、サイエンス系のスタートアップには優秀なクリエイティブが必要なんです。何故ならば「御社のビジョンってなんですか?」と言われても、ビジョンを言葉にして端的・明確に言えるところが少ない。そのビジョンを理解できる優秀な方に入ってもらい、言葉やイメージを作って具体化する必要もあります。

僕はサイエンスアートプロデューサーとして、言葉を作ることはできるのですが、動画などに落とし込む部分まではできません。作った言葉を基に、具体的なタイムラインと適切な手法でサポートしてくれる一流クリエイターがスタートアップ支援をしてくれるのはとてもありがたいことです。

–丸さんが立ち上げたリアルテックファンドはどのような経緯で誕生したのですか?

丸:僕たちがリアルテックファンドを通じて行いたいことは、世界を変えること。そのためにはテクノロジー、チーム、そして表現(感性・感覚)が掛け算されたところにお金を入れる必要があり、その全方位型のアプローチができる場所としてリアルテックファンドを作りました。

–実際に手がけている事例で、クリエイティブとディープテックの融合がうまくいっているものを教えてください。

丸:リアルテックファンドで応援している、サイボーグ技術を開発する「メルティンMMI」です。リアルテックファンドは通常のベンチャーキャピタルとは違い、ファイナンスに強いユーグレナの永田暁彦さんとキャピタリストチームだけでなく、技術面に強い僕やリバネスメンバー、クリエイティブマネージャーとしてドローンファンドの千葉功太郎さんやクリエイティブチームなども加わり、全方位型でスタートアップに必要な支援を行っています。

もう一つのクリエイティブ支援で成功した事例は「ユーグレナ」です。電通に入ってもらったのですが、プロが入ることによりプロモーション、ブランディング、言葉づくりが飛躍的に伸びたのを実感しています。

例えば、僕とユーグレナ取締役(執行役員研究開発担当) の鈴木健吾君はプロモーションにおいても学名である「ユーグレナ」をそのまま使いたかったのですが、電通からは認知度を高めるためには 気持ち悪いと思わせてでも印象に残る「ミドリムシ」でいこうと提案されました。人の感性に訴えかけるためのロジックです。結果は皆様ご存知の通りで、上場も果たしました。このロジックと感性の掛け算、経営におけるアートとサイエンスの融合はこれからもっと必要になると考えています。

水のような存在であること

–研究者でありクリエイティブの価値がわかっている丸さんはとても稀有な存在だと思います。どうしたらもっとアートとサイエンス、両方を語れる人が増えると考えますか?

丸:若い頃の感性教育が大事だと思います。

最近のエグゼクティブ教育にもアートが含まれていますが、じつは僕は、後から理系を学んだ人間なのです。小さい頃はシンガポールにいて様々な人種と混じり、自然に触れて育ちました。また、高校時代から、学生ベンチャーとして活動していた博士課程の学生時代まで、バンドをやっていました。ギター・ボーカルでCDも出していたんですよ。多分、世界初のエアギターって僕じゃないですかね?盛り上がってくるとケーブル抜いてガンガンパフォーマンスしていました。

なので、バンド活動と研究と会社経営は並行してやっていました。いわば、自分の中にアートとサイエンスが共存しているという状態です。例えば僕の場合、特に憧れていたのはエリック・クラプトンで、「レイラ」を聴いたときにあのアグレッシブなリフやタイミングにガツンとやられました。その後アンプラグドに変更したりロックに生きているエリック・クラプトンには今でも影響を受けています。

サイエンスって「偶発的」なんです。その偶発性を高めるには、直感とかセレンディピティーが大事で、そのためには感性を大事にするアート教育が大事なのです。そのセレンディピティーを高めていくと論文が増えるのです。なので、まずアートを大切にし、後から努力してサイエンスを学ぶというのが優先順位としては大事になります。一流の研究者はアーティスティックでセンスがある方が多いんですよね。

–ここからは、イノベーター丸さん自身の話を。現在社会における「自分の価値」をどのように考えていますか?

丸:有名になった会社の、それこそロボットのオリィ研究所やユーグレナも元をたどると丸が居た、と言うような“空気”や“水”みたいな存在がいいです。空気や水は不可欠なものなので、流行りはないけど永遠に存在する。水や空気のようにずっと支える人がいないと、研究開発型ベンチャーで資金調達したり成功する人が出てこない。私としては理系が強くなることが日本全体の底上げになると思っているので、長く存在できるような人間でいたいと思っています。

あと、そのような存在でいた方が、自然体で常に新しい人達と出会えるのです。有名だったり肩書きがあると、バイアスをかけて見る人が増えるから結果としてつながりが限定的になり、表面的な部分でしか付き合えなくなっちゃうんですよね。肩書き抜きで見てくれる仲間が増える方が、お互い信用できるし、結果として大きな成果を一緒に残せるようになります。

 水みたいにフラットに生きていたら、誰かが何か新しいことをやろうとするときには、声がかかるようになるんです。アートの世界からも、ベンチャーからも、都市計画からも、経産省や政府からも、なんかモヤっとしている状態の相談がくるんですよね。「お水飲んで浄化させたい」「お水流してスムーズにいかせたい」という感じで相談にいらっしゃる方が多いですね。もう、本当に“水”のような存在です。

成果主義ではなく結果主義

–「失敗」の定義。丸さんはどの程度の失敗まで許せますか?

丸:失敗はありません。「やり続ける」か、「やめるを決める」だけです。

研究者は常に手を動かしていて、99回“違うというデータ”を出して、最後の一個で正解を掴むもので、研究者には失敗はないのです。結果の蓄積が成功につながります。つまり、成果主義ではなく、結果主義なのです。

成果を上げようとすると研究者はダメになります。日本の研究で捏造が増えたのは、成果主義になったからです。昔は結果主義だったので、ダメという結果も含めて報告していた、なのでやめるという方針も出せた。それが成果主義になると隠蔽や捏造を行うようになり事故につながるのです。

僕は同様の考えで、成果を出そうと思ってベンチャーを支援したことはありません。常に結果を見ています。

–今後の野望を教えてください。

丸:リバネスの理念にもあるように「科学技術の発展と地球貢献を実現する」を本気で考えているので、地球を一個にまとめてより良い人類の進化を促したいというのが僕の野望です。

僕なりのロックは自分個人の生き方も会社の理念も一体化していることです。リバネス=丸幸弘=理念=自分=生き方…と全部つながっているのです。その丸っとした水のような流体で、地球を科学技術で覆い地球への貢献を行いたいと考えています。この野望は、死ぬまで変わらないと思います。

text:西村真里子
edit:市來孝人