【CES 2019 現地レポート】はじまりつつある女性とテクノロジーの新しい関係

2019.01.30

毎年1月にアメリカ・ラスベガスで開催され、世界中の企業が最新のテクノロジーやビジョンを発表する場として注目を集めるCES。現地レポート第2弾をお届けします。

FemTechとは?

 
FemTech(フェムテック)という言葉をご存じでしょうか。Female(女性)とTechnology(テクノロジー)からつくられた造語で、主に女性の健康管理にフォーカスしたテクノロジーのことを指しています。例えば日本では月経管理アプリの「ルナルナ」が有名です。

“女性向け”のテクノロジーとしてはこの数年、出産育児に関するBaby Techと、美容に関するBeauty Techがシンポジウムやアワードがつくられるなど盛り上がりを見せてきましたが、第3の波としてFemTechが注目を集め始めています。

さて、世界最大級のコンシューマー向けテクノロジーの展示会では、どのような“女性とテクノロジーとの関係”が提案されていたのでしょうか。

3年前は別室で展示されていた”Beauty&Baby”デバイス

ヘルスケアや美容の展示ブースの多くはラスベガスの中心部にあるSandsホールにあります。私が最初にCESを訪れた2016年、女性向けのデバイスはBeauty&Babyというメインホールの隣にある別室にまとめられていました。温熱マスクやネイルプリンターなどのBeautyTechと、フリーハンドで使える搾乳機や胎児の様子をモニタリングするパッドといったBabyTechが中心となっており、その後の2017、18年もデバイスの傾向はあまり変わらなかった印象があります。

2016年のBeauty&Baby Techコーナー

2019年はBeautyTechがスタンダードジャンルに

2019年になって、BeautyTechはSandsホールの入口すぐの場所に配置され、いよいよスタンダードジャンルになってきたのだなという印象を受けました。ダイソンの影響か、スマートドライヤーが多く見られ、その時その人の状態に合わせたスキンケア製品をブレンドしてくれるデバイスやアロマ系デバイスもスタートアップブースを中心にいくつか展示されていました。

今年のCESでのビッグニュースのひとつがP&Gの初出展でした。中でも注目を集めていたのがP&G Ventures(https://pgventuresstudio.com/)による、シミを検知して自動的に補正してくれる「Opte Precision Skincare System」という美容機器です。青色LEDを当てることでシミやほくろといった色素沈着を肌から検出しやすくした上で、先端についたカメラで撮影。該当箇所にインクジェットプリンタのように色のついた美容液を噴射することで、ピンポイントの補正を可能にしてくれます。

実際に腕の傷跡で体験してみましたが、仕上がりはかなり自然。ナチュラルさを優先させてか比較的薄付きのため、数回往復させる必要があり、ゆとりのある朝にじっくり試したいと感じました。粘度の問題もありそうですが、コンシーラーのように即座にがっつり隠せるタイプが出てくるとメイク時間が大幅に短縮されそうです。

AIを用いたBeautyTechもありました。SAMSUNGのベンチャープログラムC-Lab発の韓国スタートアップLULULAB(http://www.lulu-lab.com/en/)が開発した「LUMINI」もカメラ付き肌解析デバイス。10秒程度の撮影から肌状態を解析して最適なスキンケア商品をレコメンドしてくれます。P&Gブースに展示されていたSK-Ⅱの未来の店舗展示と近いコンセプトでもあり、実際にキオスク型もあるそうで、店舗用途もきっちりカバーしていました。

また、今年もEureka Park(スタートアップが一同に介するフロア)に出現したC-Lab自体のブースには、ASMR用の音源を録るための耳型スマホケースや、フレグランスのSNSといった五感に訴えるデバイスが展示されており、”感覚”が重要視される流れを感じました。

BabyTechのデータは“経験の呪い”から母を解放する

BabyTechで注目したのが、Eureka ParkのJ-Startupブースに出展していたBonyu.lab(https://www.bonyu.me)の母乳成分解析サービス「母乳チェック」です。

現代日本では平均1~2回しか経験しない出産なのですが、個々人が1~2回の経験でしか語れないということは、信頼できる基準がないとも言えます。大切な子どもの命や将来に関わることでもあるため「これでいいのかな」「こうすればよかったかも」と母親が思い悩むことになりがちです。

特に母乳についてはデータに基づいて栄養素を調合された粉ミルクとは異なり「私の健康状態でいい栄養を出せているのだろうか。なかなか体重が増えないけど私のせいかなどうしよう」「昨日カレー食べちゃったけど嫌がる風味になってたりしないかな」といった個人の生活と直結した内省会になってしまいます。「そうやってストレス溜めているからいいお乳が出なくて飲みが悪いんじゃない?」という心ない発言にさらにストレスを溜めるループに陥ったりすることもあります。

母乳成分を解析することで、こうした悩みをある程度すっきりさせるサービスが登場し、これまで1~2回の経験値からの善意のアドバイスに右往左往していた母親が、擬似的に大量の経験値の中で自分の状態を把握できるようになり、後悔しない育児ができる可能性を感じました。

ブラジャーはバイタルデータと親和性が高い

女性ならほぼ毎日身に着けるものというとメイク以外ではブラジャーが挙げられますが、体に密着させて着ける点でデータ計測と非常に相性がいい点に目をつけていたのがBloomer Tech(https://www.bloomertech.com)の「BLOOMER BRA」です。

MIT IDM(Integrated Design & Management)からスピンオフしたスタートアップが出展していたこのデバイスは、体を一周し密着するというブラの特性を活かしてECG(心電)、脈拍、呼吸などをBluetooth経由でアプリに記録。心臓病の兆候を発見したり、医師やケア担当者が見守りとして利用することもできます。

また、下着に後から貼りつけるタイプとしてはSpire(https://spire.io/)の呼吸トラッキングデバイス「Spire Health Tag」があります。もともとはウェストにクリップする丸い石のようなタイプを販売していましたが、昨年から下着や水着に直接貼りつけて使うタイプを売り出し始めました。お腹や胸の膨らみ具合から呼吸の状態を検知して、集中度やストレス状態を測り、必要だと思われる時には振動して深呼吸を促すのですが、月経やPMS(月経前症候群)等でストレス度が変化しやすい女性向けデバイスとも言えるのではないでしょうか。

両者ともに着用感をさほど邪魔しないフレキシブルな回路を使用しており、洗濯も可能だという点で“ウェアラブル度”が上がっています。

IoT月経カップ

大きな可能性を感じたのが、韓国のスタートアップによるIoT月経カップ「LOON CUP」です。これまでアプリに自分で記録していた月経期間や体感値でしかない経血量や交換時期、ホルモン変化の指標になる体温といったデータを、自動的に計測・記録できるデバイスです。2015年にKickstarterで10万ドル以上を集めました。

月経への対処法はいくつかあるのですが、生理用ナプキンと呼ばれている吸収剤が入ったパッドを下着にあてる方法、タンポンという吸収剤を体内に入れる方法が現在は主流となっています。日本では9割近くがナプキンなのではないでしょうか。月経カップは膣内に医療用シリコン製のカップを入れて経血を受けとめる方法で、衛生面と利便性の点で優れていること、素材の改良により欧米での利用が進んだことから日本でも第3の方法として注目されつつあります。このカップの下部にセンサー類とBluetoothを入れることでアプリと連動した計測・記録ができるようになっています。

不調や健康診断で婦人科に行くと“経血量の多さ”“最終生理とその前の生理の開始日と終了日”等を書く欄があったりするのですが、手動でつける記録は忘れてしまうこともあるし、自分の経血が多いか少ないかなんて定量化している一般人はいないよなぁ、とぼんやり疑問に思っていたことの答えが見えたような気がしてすっきりしました。

ただ、残念なことに展示場所がCESでも奥まったSouth Plazaテントのさらに奥。展示場所が過去実績で決まるというCES。来年はBeauty&Baby以外のFemTechが目立つ場所に展示されていることを期待します。

アジア系の出展が多いSouth PlazaのDesign&Sauceエリア。

テクノロジーと多様性

女性は一生のうちでホルモンが体に与える影響が比較的大きい傾向があり、ひとたび子どもを産むという選択をすれば、妊活(これは男性もですが)から始まって、胎児と自分の体調の管理、出産、産褥、授乳(もしくはミルク)といった多様なイベントの渦に放り込まれます。

また、月経やPMSに伴う体調やメンタル、肌状態の変化などが毎月あり(かなり個人差はありますが)短いサイクルで心身が揺らぎやすいと言われています。

このように日々の暮らしやライフイベントと密接に関わりがあり、個人差が大きくパーソナライズが求められる女性の健康管理ですが、テクノロジーとの関係は長らく良好とは言えませんでした。

2016年にオバマ政権がまとめたAIについてのレポート「Preparing for the Future of Artificial Intelligence」(参照)の中でも、白人男性が研究/開発者の大半を占める現状では、ジェンダーバイアスや人種や文化の多様性への理解に欠けたAIができてしまうという指摘がなされていますが、家電やITサービスの多くも近しい課題を抱えています。

今年、CESの運営団体CTAが女性や有色人種やダイバーシティーに対する1000万ドルのファンドを発表しました。テクノロジー業界の多様性の必要性について言及し実際に資金を用意したことに、CTAの時代の空気を読む軽やかさを感じます。

個々人の心や体のデータがとれるようになってきた今、よりパーソナライズされたデバイスやサービスが、人生を充実させる時代に突入しています。テクノロジーを使い人々が幸せになる未来をつくることを生業にしているものとして背筋が伸びたCESでした。

Report:なかのかな
Edit:西村真里子