【CES 2019 現地レポート】モビリティ時代の生活者エクスペリエンスを考える

2019.01.23

毎年1月にアメリカ・ラスベガスで開催され、世界中の企業が最新のテクノロジーやビジョンを発表する場として注目を集めるCES(Consumer Technology Association (CTA)主催)。2019年は1200社のスタートアップを含め、150カ国から計4500社以上、延べ床面積は約27万平方メートル、参加者数は41日間の開催で18万人以上となりました。

直近までの開催と異なり、今年はIoT、AI、5Gなどのような、軸となる新たな技術トレンドがあったわけではない分、より成熟し具体化した、直近で市場に出ることを見据えたビジョン/プロダクトが多かったように思います。満を持してのCES初参加となったP&Gがパネルの中で、自分たちのCESへの参加を “Consumer EXPERIENCE Show への参加である”と位置づけていたことも、テクノロジーそのものでなくユーザーにとってのエクスペリエンスの価値を高めることに各社が向いていることの現れでしょう。

自動車業界で話題になっているMaaS(Mobility as a Service)はまさに、自動車が単なる移動手段でなくサービス化することを決定づけるトレンドで、世界ではこの市場を取るべく多くのプレイヤーが注目しています。

自動運転 各社の動向は?

Fordは “Transformation Mobility Cloud(TMC)” 構想を昨年に引き続き紹介。ヘルスケア、デリバリー、警察車両などとの連携により、例えば警察車両であれば事故車両の発見と正確な位置の連絡により警察車両が迅速・効率的に現場に向かうなど、車両データをクラウドにつなぐことにより提供可能な社会システムを紹介していました。またブースでは、TMCで提携するスタートアップのDASHEROの技術も紹介。アメリカではオンラインでオーダー/決済された商品が店舗によって用意され、ユーザーが車で好きなときに商品を受け取りにいくカーブサイド・ピックアップというサービスが拡大しつつありますが、移動中の車内で目的地に到着するまでの間、VUI(Voice User Interface)で発注した商品を最もシームレスに受け取ることができるルートを計算し、最適な販売店舗に注文情報を送信するという技術を紹介していました。

©Ford Media Center

Mercedes-Benzは新型CLAクーペの発表の中で、NVIDIAが技術提供するインフォテイメントシステム “MBUX(Mercedes-Benz User Experience)”をハイライトしていました。音声アシスタントと連動しARでのナビゲーションをし、またダッシュボードのスクリーンをジェスチャー操作可能にするなど、全く新しいドライバーエクスペリエンスを提案しています。

©Mercedes-Benz Media Center
©Mercedes-Benz Media Center

Audiは “Audi Experience Ride” のコンセプトを発表。車のリアルな移動と連動した、車内の後部座席で体験可能な映画やゲームなどのVRエンターテインメントコンテンツを複数紹介していました。また2019年前半に発売予定の電気自動車ブランド “e-tron”はAmazon Alexaに連動し、ボイスコントロール可能なほか、オンデマンドでの機能追加を可能に。ディスプレイのインターフェイスデザイン変更や機能追加、ライトの種類を自分好みにカスタムするなど、myAudiアプリを通しユーザーの好みに合わせてカスタム可能なオプションを有償で提供。自動車会社にとっての新しいビジネスモデルへの挑戦を見ました。

©Audi Media Center
©Audi Media Center
©Audi Media Center

Intelは運転支援システムのMobileyeを買収することで、プロセッサーの提供だけでなくプロダクトを提供する企業としての姿勢を強めています。ブースでは “Intel Outside”(補足:Intel Inside:「インテル入ってる」に対し)のスローガンを発信していました。Mobileyeで開発するシステムの独自性のひとつとして、映画会社のWarnerとのアライアンスを通したコンテンツを提供。車内後部座席でバットマンのコンテンツを楽しんだり、バットマンの舞台となるゴッサムシティを、リアルでの移動と連動させ走り抜けるというコンテンツを提案したりしていました。

©Intel Media Center
©Intel Media Center

Bytonは中国発の電気自動車で注目されている企業のひとつです。ダッシュボード上に設置された巨大なディスプレイが特徴的で、運転に必要な情報やさまざまなコンテンツを表示。独自OSのByton OSの機能のひとつとして提供しているのがHealth ID。搭乗しているひとりひとりを識別し、音楽や食の好みを過去の傾向から学習し、ボイスコントロールでの提案に活かす機能を備えています。創業者はBMWと日産でそれぞれ部門を率いる立場にいた2名とあって、コンセプトの完成度も高く、かつ実装のスピードも早く、2018年に中国で発売したレベル3のAV(Autonomous Vehicle)を2019年には大量生産することを宣言しています。

Amazonら市場拡大のチャンスも

ここまでの多くの企業のボイスコントロールに組み込まれているのがAmazon Alexaですが、AmazonはAlexa Auto SDKという車のインフォテイメントに最適化された開発キットの提供を開始しており、関連するデバイスなどもAlexa Autoの専用ブースで紹介されていました。Amazonにとってはクラウドサービスの提供とともに、あらゆる場所を購買起点/メディア消費起点とすることを狙いにしており、モビリティ社会が広がる中で市場を更に大きく広げようとする狙いがあると思われます。

クラウド化やIoT化と異なる文脈では、Hondaがシリコンバレー企業との提携を促進するHonda Xceleratorプログラムでの提携企業のひとつ、Novetoがありました。カメラで認識したドライバーにのみ聞こえる音を発する技術を紹介。ブースでは後方からの追い越し車両があった場合に警戒音を出すというソリューションが紹介されましたが、シェア・モビリティが普及し共有空間でのパーソナライズのニーズが出るにつれ、需要が拡大する技術かもしれません。

また自動車とは異なりますが新しい形のモビリティとしては、Bellは昨年に引き続きUberと共同開発する自動運転ドローンを展示。2025年のサービスローンチに向けて現在も飛行技術の検証を進めており、今年は初めて実機サイズの展示をしていました。物流ソリューションの提供も見込んでおり、こちらはヤマト運輸と提携しているそうです。

セミナーでもモビリティ社会について多くの議論が

CESにはキーノート以外にも多くのセミナーが開催されており、今年は世の中からの注目度の高さからモビリティに関するセミナーやパネルディスカッションも数多く催されていました。その中のひとつ“New Mobility Revolution”では、自動運転社会が普及するための社会的課題が議論されましたが、安全性の担保は自動運転関連企業には当然の責務として、業界の発展のためには安全性を競争基準にするべきではないと述べられました。むしろ移動に新しい付加価値を作り、独自性のあるサービスを提供していくことが、新しい社会でのモビリティ企業の競争優位になることを示唆しています。

またMercedes-BenzやFordの担当者も参加したパネルディスカッション “Evolution of Mobility: The New Automotive Frontier”では、CASE(メルセデス・ベンツが提唱する、Connected / Autonomous / Shared & Services / Electric のモビリティのあり方に対する概念の総称)が進んだ場合に実現しうる自動車社会について議論されました。ユーザー・セントリックな考え方に基づくとよりフレキシブルで利便性の高いサービスのニーズが高まり、例えばライフステージや利用シーンの変化に合わせた車を利用できるサブスクリプション型サービスの普及など、ユーザーのニーズに合わせた新たなビジネスモデルが生まれてくる可能性が示唆されています。

新しいモビリティ社会が徐々に形になり、具体化される各社の戦略の中で、ユーザーエクスペリエンスにおける価値創出が重要なテーマになってきていることがわかります。自動車/モビリティは現在私たちの生活における消費の大きな割合を占める巨大市場で、異業種からも多くのプレイヤーが狙っている市場です。ゆえにここ最近のCESでも非常に注目されているテーマになっています。

各社の戦略がプロダクトやサービスに落ちていきつつあるなかで、クリエイターにとっても、ユーザー目線でのビジョン作り、インターフェイスデザインなど多くのビジネス機会が眠っている領域だと思います。またスタートアップにとっても、技術提供や大企業には無い新たな視点を通しモビリティの巨大市場に参入できる可能性もあります。また、前述のBytonのように巨大市場の1プレイヤーになれる可能性もあります。今後も様々なプレイヤーが絡みながら、グローバルで大きく変化していく可能性が高いこの業界は、今車業界に居ない人も自分ゴトとして考えてみると参入できるポテンシャルが大きく開かれている業界です。生活者が幸せになるよりユーザー視点でモビリティ、都市を考える上で当記事が参考になれば幸いです。

Report:栗林祐輔
Edit:西村真里子