「お客様は地球人」–コインロッカー難民ゼロへ、 ecbo cloak工藤慎一の挑戦

2019.01.18

電通と多彩なメンター陣による、スタートアップ支援プログラム「GRASSHOPPER」。クリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材も実施し、スタートアップとクリエイティブの関係性について探っていく。

今回は、「荷物を預けたい人」と「荷物を預かるスペースを持つお店」をつなぐ荷物一時預かりシェアリングサービス「ecbo cloak」を運営するecbo株式会社 代表取締役社長 工藤慎一。ネットで事前予約をすることでカフェ・美容院・駅構内・カラオケ店など様々なスペースに荷物を預けることができるサービスだ。「コインロッカー難民ゼロ」を目指すこのサービスを生み出すにあたっては、どのような考え・経緯があったのだろうか。

「その夢に投資したい」–若きベンチャーが大企業を味方につけた秘訣

―はじめにecbo cloak立ち上げのきっかけを教えてください。

工藤: 最初のきっかけは、大学時代にインターンしていた配車サービスアプリ「Uber」での経験です。Uberで日々いかに「人」を効率的に運ぶかを考えて働く中で、いつしか効率的にモノを運んだり、保管するということにパッションを感じて、必要なモノが必要なタイミングでその場所にある世界を作れたらいいのにと考えていました。

社会人2年目、渋谷を歩いていると、コインロッカーにスーツケースを預けられず困っている訪日外国人に声をかけられました。渋谷中を一緒に探したのですが、40分かけて探しても空いているコインロッカーが見つからなかったんです。「こんな便利な時代になんて非効率なことが起きているんだ」と衝撃を受けました。その後、渋谷のコインロッカー事情を調べてみると、渋谷駅は毎日300万人もの乗降客がいるにもかかわらずコインロッカーの数はたったの1400個で、そのうちスーツケースが預けられるものは90個しかないということがわかりました。とはいえ、駅前にコインロッカーを設置しようとしても土地がない時代なので、「カフェに荷物を預けられたら面白いのでは?」と思ったのがecbo cloakの始まりです。

―なるほど。「街をコインロッカーにしてしまう」という革新的なアイデアですが、その構想が、世の中を変えると確信したタイミングはありましたか?

工藤:立ち上げ当初、人もお金も足りない中で、できるだけお金をかけずにプロトタイプを作り効果検証しました。荷物を預けられる場所にGoogle Map上でピンをさしておき、QRコードがついたチラシを配布。ユーザーには、Googleフォームに入力をしてもらい、その情報が直接僕に届くので、そのまま僕が店舗にメールするという「人力マッチング」をしていました。その2日間の検証で3000円の売り上げが出たんです。

プロセスが煩雑でも「利用者がいた」という事実が大事で、あとは自動化するだけだと確信しました。プロトタイプと聞くと数千万円かけて作るものと考えられがちですが、規模が小さくても、本質的に何が課題なのか、そのニーズは正しいのかという検証はできると信じています。起業したてはアドレナリンが出て大きなアクションに出たくなる。けど、そこで一回立ち止まって小さなことをやってみるのも大事だと思います。

―今でこそJR東日本・JR西日本・JR九州や日本郵政など、日本を代表する企業と提携しているecbo cloakですが、サービスローンチ当初はどうやってパートナーとなる店舗を探したのですか?

工藤:店舗で荷物を預かることで収入が入り、さらに預けたユーザーの3割がその店舗で飲食をするというデータがあるほど集客にも大きく貢献しています。なので、預ける店舗側にとってはメリットばかりです。

にもかかわらず、ローンチ当初は最初の1〜2店舗を味方につけるのに非常に苦労しました。そこでUber Eatsの立ち上げに関わっていた友人に相談をし、当時の自分のセールストークを聞いてもらいました。その時「合理的にメリットはわかるが、パッションがないから心が動かない」と言われてハッとしたんです。セールスの場で話すべきなのは、どれだけメリットがあるかということよりも、一緒に描きたい世界だったということに気づいて。

それ以降は、サービスを導入してもらうことで、毎日十数万人いるコインロッカー難民を助けられ、海外の人が「日本って素晴らしい」と思ってもらえる世界を一緒に作りたい、という想いを率直に伝えるようにしました。すると「その夢に投資しよう」という店舗さんがどんどん協力してくれるようになりました。

「“対地球人”のビジネスを」–Uber時代に学んだグローバルへの意識

ーUberでのインターン経験の中で、今のecbo cloakに引き継がれているDNAや、受けた影響はありますか?

工藤:一つはプロダクト的な影響です。Uberは配車する側もされる側も、実に簡単に使えて、とてもシンプルなビジネスモデルです。それこそが、グローバルに550都市に展開できている理由だと。なので、ユーザーが時間をかけて学習しなくても、すぐに使えるプロダクトを目指したいと思いました。

二つめはグローバルな視点です。 グローバル展開しているUberにいると、世界を身近に感じる場面が多々ありました。その経験の中で、世界中誰もが使えるUI/UXを考える方が楽しいし、及ぼせる影響力が大きいと思ったので、ecbo cloakでも常に「対地球人」「対人類」に向けてサービスを作っていることを意識しています。

三つめは、中で働く人たちが「世界を変える」という使命感を持っている点です。自分たちの仕事が無人運転に繋がり、数百万人の交通事故もゼロになり、交通渋滞を減らせるかもしれない。メンバーそれぞれが使命感を持って、社会課題を解決していこうとするカルチャーが好きで、ecboにも根付かせたいと思います。

ー2020年の東京オリンピックも目前に迫っている今、ecbo cloakとしての構想があれば教えてください。

工藤:まずは水平的に、東京での成功事例を同じ課題を抱える世界中の都市に横展開し、世界中のコインロッカー難民をゼロにしたいです。東京でできたことを大阪で展開し、さらに2025年までには海外の500都市で同じことを実践できるよう目指しています。

垂直的な展開としては、荷物預かりのプラットフォームに他の機能をアドオンしていきたい。たとえば現在、預けた荷物をボタン一つで空港に運べるような配送ような配送「エクボデリバリー」というサービスを構想しています。

「感謝が生まれるビジネスがしたい」–起業の原動力となった小学校の原体験

―工藤さん自身について伺います。起業を志すようになったきっかけは、どのタイミングだったんですか?

工藤:両親がふたりとも経営者だったというのは、ひとつの理由だと思います。

もうひとつには、小学生の時の初めての商売体験があります。小学校3年生の時、当時流行っていたカードゲームで、日本では1枚10円のカードが中国では1枚100円で売られていることに気づきました。中国に転売するビジネスで、初めて利益をあげる経験をしました。

その中で、カードを買ってくれた中国の方から非常に感謝をされたことがあって。自分のためにやったのに感謝されたというのが純粋に嬉しくて、この原体験をもっと大きな規模で実現したいと思ったんです。そこで、より多くの人を喜ばせられるのは「起業だ」と思ったのが、大きなきっかけになっています。

―幼少期からビジネスアイデアを考えていたとは、驚きです(笑)。そんな工藤さんがビジネルモデルや企画を考える上で、いつも実践している法則やルールはありますか?

工藤:複数の本質的な課題を、ひとつのシンプルなソリューションで解決するアイデアを考えるようにしています。その代表的な例がiPhoneです。iPhoneのように様々な課題を一挙に効率的に解決してくれるものが登場したら、人はそこにお金を払います。

ecbo cloakもこのルールに則っていて。ユーザーは、ロッカーを効率的に見つけたい。ロッカーの管理側は、土地不足やメンテナンス費用・設備投資に困っている。店舗側は、お金を使わずに集客がしたい、余ったスペースを有効活用したい。三者のニーズや課題を同時に解決できる仕組みになっています。

―急速に事業成長しているecbo cloakですが、工藤さんにとっての「成功」や「失敗」の定義はありますか?

工藤:時価総額1000億を超えるとか、売り上げ1000万円を達成することが、成功やゴールだとは考えていません。まずは、世界中のコインロッカー難民をゼロにする。それを達成したら、次は預けた荷物の配送を実現させ、より効率的なモノの配送を実現する。「課題は常にある」という信念のもと、日々世界をより良い方向に変えていくことを目指したいです。

―今後のecbo、そして工藤さんご自身の野望を教えてください。

工藤:人が本当に必要なモノだけを所有できる世界を作りたいです。人は平均して4000種類ものアイテムを所有している一方で、普段の暮らしでよく使うものはそのうちのたった5%といいます。そんな暮らしの中で、本当に必要なモノを必要なタイミングで持てることは、人の根源的な幸せに繋がると思っています。ボタン一つでモノを出し入れでき、使っていないものは簡単にシェアできるプラットフォームを作っていきたいです。

Interview & Text:長谷川きなみ
Edit:市來孝人