内閣府・石井芳明が語る、スタートアップ政策の現場から見えた“クリエイティブのチカラ”

2019.01.16

電通と多彩なメンター陣による、スタートアップ支援プログラム「GRASSHOPPER」。サイトではクリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材も実施、スタートアップとクリエイティブの関係性を探っていく。

今回は、日本政府の集中支援プログラム「J-Startup」をはじめ、「官」の立場から長年スタートアップ政策に携わってきた、内閣府イノベーション創出環境担当の企画官・石井芳明。政策の現場におけるクリエイティブの重要性や、これまでの「政策×クリエイティブ」事例を聞いた。

「J-Startup」で進展する 、クリエイティブの活用拡大と人材活用

–日本のスタートアップが世界に大きくジャンプする“グラスホッパー”になるとき、クリエイティブのチカラで何ができるでしょうか?

石井:スタートアップの成長においてクリエイティブの力は大きいと思います。それを明確に意識したのは、「HEART CATCH 2015」というイベント。デザインやマーケティングのプロである大手広告代理店のクリエイティブディレクターやUI/UXデザイナーが、本気で設立間もないスタートアップを支援したらどうなるか、という実験的な取り組みです。支援の前と後でスタートアップの商品・サービスが大きく飛躍して、なるほど、これが「クリエイティブ・ジャンプ」なのかと実感できました。

例えば、災害現場のシャワーや手洗いの供給など、オフグリッド水処理を行う「WOTA」という会社。プログラムの前は東京大学の実験室からそのまま出てきたようなスタートアップだったのですが、クリエイティブのチカラで大変身。3カ月の支援期間でビジョンが明確になり、キャッチーなプロダクト紹介ビデオもできました。その後も、プロダクトデザインや使いやすさが格段に進化し、AIモバイル水循環システムのグローバル展開めざして「あらゆる人が水の問題から解放されて、生活を楽しめる未来をつくる」というミッションの実現に向かっています。

プロダクトやサービスの企画において、生活者に身近に感じてもらい、使ってみたいと思うよう工夫するお手伝いこそが、デザインの中心的な役割。スタートアップの成長プロセスの最初からクリエイティブが入っていることが大事、ということが腑に落ちました。

グローバル競争の時代において、言語で説明するよりも一目瞭然で理解してもらえるデザインは重要です。機能性や美しさを備えたプロダクトやサービス自体が多くを語り、人々に受け入れられると考えています。これはスタートアップだけではなく、中小企業もそうですね。高い技術力でいいものを作れるだけでお客様が理解してくれる時代ではなくなっているので、中小企業にもクリエイティブの理解、活用はどんどん必要になってきます。

–政策として「クリエイティブ」を意識することはありますか?

石井:はい。特に、フランスのスタートアップ支援施策「フレンチテック」は、政策としてクリエイティブのチカラを意識させるものですね。一社一社、個別に見ると日本のスタートアップの方が優れているのではないかなと思うのですが、共通ロゴのもとに集まった「フレンチテック」群はインパクトがあり、世界でも非常に注目されています。この動きをベンチマークとする中で、日本も政策としてクリエイティブを意識したものを作らなければいけないと考えました。

そこで、世界に向けて成長するスタートアップに官民で集中支援を行う「J-Startup」プログラムでは、積極的にクリエイティブ分野で活躍している人を巻き込む必要があると考え、ロフトワークの林千晶さんやHEART CATCHの西村真里子さんに入ってもらいました。

例えば、J-Startupのロゴは、ロフトワークさんにお願いし、国内と海外のデザイナーからデザインを公募するアワード形式にしました。全部で1,500件以上の案が集まったのですが、海外から見る日本のイメージもロゴを通して見ることができ、グローバル展開を意識するためにも非常に良い機会になったと考えています。集まったロゴの案をプロのデザイナーと政策チームの共同作業で絞り込んでいき、最後に残った3つのロゴ候補を、J-Startupのキックオフイベントに参加した方々にオープンに投票してもらい決定しました。

政策の企画においても、ムーブメントとなるようなクリエイティブ・アドバイスをプロフェッショナルからいただいて実践することを意識しています。

–政府関係者にクリエイティブの重要性を理解している方がいることはとても心強いです。石井さんがクリエイターと協業した施策をもっと教えてください。

石井:思い返してみると今から5年ほど前に、成長戦略におけるベンチャー支援の端緒となる事業で、予算がまだ少なかったこともあってロゴ、パンフレット、ホームページのデザインをクラウドソーシングで作りました。そのころ役所ではまだ誰も仕事で使ったことがなかったのですが、使ってみると安くてハイクオリティ。一回そういう事例ができると、「役所でもクラウドソーシング使って大丈夫なんだ」と真似してくれる人たちも増えてきました。

クリエイティブ・デザインのチカラを「見えるようにする」ことにより、他の政策にも影響を与えることができるようになるんですよね。前例主義の役所だからこそ、良い前例を誰かが作れば道は開けてくると思います。

ところで、今、我々のリーダーである平井大臣(平井卓也内閣府特命担当大臣)も非常にクリエイティブな方です。スタートアップやエコシステムビルダーと直接コミュニケーションを取る方法として「HIRAI Pitch」を開催中。渋谷のPlug and Play、日本橋のLINK-J、福岡のFukuoka Growth Next などの現場に出向いて車座で座談会。毎回、根回しなしのストレートな意見を集めて、政策企画をしています。議論はグラフィックレコーディングで記録し、なんと大臣室にはグラレコが飾ってあります。

スタートアップや中小企業がメジャーになる社会をつくる

–ここからは石井さんご自身について。現在、社会における「自分の価値」をどのように考えていますか?

石井:難しい質問ですね。(少し時間をあけて)自分の価値はあまり意識してないです。ただ、公務員に共通する価値観は、世の中にとって良いことをやる、世の中に何らかの価値を提供できることをやるということ。僕もそう思っています。なので、「自分が世の中に対してできることは何か? 」をその時その時で考え、最大限努力することが多いです。

–石井さんは経産省時代から、公務員としてスタートアップのムーブメントをつくってきましたが、新しいことを起こす際には、いろんなトラブルに直面することがあると思います。固定観念に囚われず突破するために必要なことは?また、これから突破すべき課題は?

石井:自分自身が中小企業の生まれ育ちなので、中小企業やスタートアップを応援したいという気持ちがもともと強いです。それで応援していると、「世の中を良くする」という目標は公務員の専売特許じゃないことに気が付きました。民間企業でもそのような「想い」を持って活動されている方はたくさんいらっしゃいます。なかでもスタートアップの方々は、それをチャレンジングな方法で実現しようと考えている方が多いですね。トラブルや壁を突破する上で必要なのは「想い」の強さではないでしょうか。現在、成功しているスタートアップの経営者の方々の共通点は、強烈な「想い」で、人を巻き込んでいるということだと考えています。

これから突破していかなければいけない課題は、スタートアップをブームでなくて、カルチャーにすること。以前に比べるとスタートアップへの投資金額は4倍以上、IPOも増えていますし、東大をはじめとする大学発スタートアップも増えてきています。ただ、世の中的にはまだまだメジャーじゃない。スタートアップや、新しいことへの挑戦が社会にカルチャーとして定着する環境をつくることが「突破すべき課題」です。

スタートアップがメジャーになるためには、グローバルに成功したり、画期的な技術を持って成功するヒーロー/ヒロインが生まれてくる必要があると思っています。また、スーパースターだけでなく、身近なヒーロー/ヒロインがたくさん出てくることも大事だと考えています。活き活きと挑戦する先輩をみて、若者はチャレンジしようと思うので。

そのような社会をつくるために、環境整備に注力したいと考えています。政府としてはJ-Startupプログラムのさらなる発展、表彰制度の拡充(日本オープンイノベーション大賞も新設)、グローバルへの発信、教育制度の見直しなどを積極的に行います。

–「失敗」の定義。石井さんはどの程度の失敗まで許せますか?


石井:チャレンジし続ける、前進し続ける限り失敗はないと思っています。途中でやめたり、妥協してしまうことが失敗。自分の軸を意識しながら、うまくバランスをとって押したり引いたりして進めていく必要があると考えています。「あれ、これって自分がやりたいことだったっけ? 」と思ったら、少し戻って考え、それからまた前進してもよいと思います。外から批判されたり、不本意な評価を受けたりすると迷うこともあると思いますが、軸がぶれないようにしてバランスを取りながら進めていくのがよいですね。

–バランス感覚を持ちつつ前進し続けるということが大事ということですね。石井さんの野望を教えてください。

石井:先ほどもお話しした、スタートアップや中小企業がメジャーになる社会をつくることです。挑戦する人が、ヒーロー/ヒロインとして活躍し、みんなからリスペクトされる社会となるよう、政策面で努力したいと思います。

Interview & Text:西村真里子
Edit:市來孝人