「日本株式会社のCIOになりたい」グロービス高宮慎一のビジョン

2019.02.12

日本が誇るユニコーン企業のメルカリはじめカヤック、Viibar、nanapiなどへの投資家として著名なグロービス・キャピタル・パートナーズの高宮慎一へのインタビュー。

今回のテーマは二つ。一つは、日本のオープンイノベーション事情、日本のスタートアップの優位性といった投資家視点で見る国内事情について。もう一つは、経営におけるクリエイティビティの重要性について話を聞いた。

日本は「大企業とスタートアップの掛け算」で勝てるユニークな国

–メルカリやカヤックなどへの投資家として活躍されているグロービス高宮さんに聞きます。今の日本のスタートアップ/ベンチャーを取り巻く環境をどのように見ていますか?

高宮:大きく成長してきていると思います。日本のスタートアップエコシステムの歴史をひもとくと、1990年代後半は第0世代にあたり、ダイヤルQ2などが出てきた時期です。その当時は一回失敗するとリターンマッチがない状態で「脱サラ」「一発当ててやる!」というような感じで、ともすると世間には大企業に馴染めなかったとも見られてしまい、社会的にリスクも高いイメージでした。

2000年に入り、いわゆる76世代が大学時代にインターネットに触れて、インターネットが好きなこともあり、自己実現のために起業するケースが出てきて、少しずつスタートアップに対してポジティブなイメージが出てきます。彼らが成長してGREEやDeNA、サイバーエージェントを作り、そこからスピンオフする第2第3世代が生まれ、また第1世代もシリアルアントレプレナーとして活躍するようになりました。このような世代論的な発展により、エコシステム全体が伸長し、起業家の質が圧倒的に上がってきています。

また、資金供給額も大きく変わってきています。5年前だと例えばnanapiに3億円投資した時には大きな話題になったのが、今ではアベノミクスがトリガーとなり、政府のお金が呼び水となり、大企業のお金がベンチャーキャピタル(VC)に回るようになってきました。さらに、オープンイノベーションブームが来て大企業から資金供給が大幅に増加しました。メルカリのように上場前に170億円調達し、7000億円の初値で上場する事例もでてきました。今後日本のスタートアップが骨太に仕上がるための資金供給インフラが一気に整ってきたことも、エコシステムが大きく飛躍する兆しと捉えられます。

–これは日本ならではの特徴なのでしょうか?

高宮:大企業のオープンイノベーションが活発で、日本のベンチャー投資の資金供給源の6割が大企業であることは、日本らしい特徴だと思います。世界のマーケットで戦うことを前提に日本の比較優位性を考えると、スタンドアローンでスタートアップが独自に戦うのではなく大企業と組み、新旧の日本の強みの掛け算で世界と戦っていくことが有効だと考えています。

本来の目的は、事業を世界に羽ばたくものに育てることであるとすると、必ずしもスタートアップ企業として世界を取る必要はなく、大企業とのアライアンスだろうが、ジョイントベンチャーだろうが、傘下に入るケースだろうが、なんでもいいはずで、レバレッジ(梃子)にできる日本の資産は有効活用すべきです。日本の強みを結集した骨太なオープンイノベーションを行うことが世界で勝つ道だと考えています。

ただ、そのためには大企業が、オープンイノベーションを行うドメインや戦略を、全社の経営戦略として考えていく必要があります。既存領域のクロスセル、アップセルなのか?新しい飛地を作って全く新しいドメイン開拓していくのか?経営が戦略目標を設定する一方、大きく権限は現場に委譲し、スタートアップのスピード感を理解しながら進めていくことが大事です。スタートアップ側も大企業の動き方や組織のダイナミズム、お作法を理解して進めないと、大企業とスタートアップの強みを掛け算した理想的な日本の勝ちパターンは実現できません。

そのためにもオープンイノベーション担当は大企業とスタートアップ、双方の状況を理解し、お互いを翻訳してあげることが大切になります。僕自身、近年オープンイノベーションプログラムのメンターやアドバイザーでお声がけされることが増えているのですが、大企業とスタートアップのギャップを理解し、翻訳し、橋渡ししてあげるプロデューサーとして立ち回ることが大事だなぁと痛感しています。

テクノロジーの幻滅期、投資家として「お金以外の価値」の提供

–大企業とスタートアップが骨太なタッグを組む。そのような世界に勝つ日本オリジナルの仕組みができたあかつきには、既存の産業区分が溶けていき新たな産業が生まれるのではというダイナミズムを感じます。

高宮:今はすごく面白い時代です。スマートフォン登場からのデバイスシフトが終わり、AIやブロックチェーンなど新たなテクノロジーが生まれつつもまだ具体的なマーケットには結びついていない。1年単位で見るととても凪な一方、5年10年単位で見るとすごい変化が起きるタイミングです。

90年代のインターネットが出たての時は、インターネットもテクノロジー投資だったのが、2020年に近づくにつれてテクノロジーとしては成熟して、サービス投資になってきたのと同じように、AIやブロックチェーンなどのニューテック系も次の5年はテクノロジー投資で、やがてはサービス投資に移行していくと見ています。これらは要素技術としては完成しているけど、出口側のマーケットをまだ見つけられていないという状況なのですが、技術シーズとマーケットニーズがマッチしたところでネクストビッグシングが起きることでしょう。

また、ニューテック系はハイプサイクルの過剰な期待期から幻滅期に入りつつある時期です。逆にこの幻滅期の中で、骨太にテクノロジーのアプリケーション先を見つけ、一気に伸びるスタートアップが出てくるので、そこを見つけるのがベンチャーキャピタリストとしては大事だと思っています。

ニューテックが主語で語られることも少なくなるでしょう。今後“AIベンチャー”は無くなると思っています。どちらかというと“ファッションコマースベンチャー(AIを競争優位として活用)”のようなカッコ付きの形で溶けていき、テクノロジーが“機能”から“ユーザーにとっての価値”へと明確にパッケージングされていくことが大事になります。短期的には凪の時代ですが、嵐の前の静けさとも言えるのが今です。

–これから迎える嵐のような時代に高宮さんの視点で活躍していくには、どうしたらよいのでしょうか?

高宮:みんなが起業家的に振る舞えばいいのではないでしょうか?僕らベンチャーキャピタリストもスタートアップと一緒で「ウィル(WILL、自意思)」が一番大切だと思っています。確実な未来予想なんてないと思っていて、未来はウィルを持って主体的に作っていくものだと思っています。スタートアップで起業家が、ウィルを持って、実現したい未来に向けて突っ走るのと同様、投資家も実現したい未来の絵を描き、その実現に突っ走るというのが大事だと思います。

–ベンチャーキャピタリストは増えた方がよいのでしょうか?

高宮:はい、今ようやくベンチャーキャピタリストも増えてきて業界が拡大してきているので、メガベンチャーを作り成長を支援することをもっと加速できればと思っています。ただ、その成長を支援する際に大事なのが「投資業」じゃなく、そのスタートアップの価値を実現する「一つの手段が投資」であるという意識です。すでにお金が相対的にコモディティー化しお金の価値が低くなっているので、お金以外に何を提供するかが大事になってきます。

60年代後半にベンチャーキャピタルが生まれたシリコンバレーも、アーリーステージでお金を集めるが難しかったので、新規産業を育てることがニアリーイコール投資となっていました。しかし、本来ベンチャーキャピタルの提供価値はお金ではなく、スタートアップの成長の支援です。お金の価値が相対的に低下したのであれば、お金以外の事業支援をどんどん拡大していきたいと思います。ベンチャーキャピタルのビジネスモデル自体のイノベーションも起こしていく必要があると思っています。

–お金以外の投資で価値を作る際に「クリエイティブ」の支援は生かされてきますか?

高宮:それこそウィルや趣味の話なので全産業がそうなるわけではないですが、私は学生時代からクラブでイベントを運営したりデザイナーやフォトグラファーとのコラボをプロデュースしたり、クリエイティビティを持った方々とのシナジーを生み出すのが好きなので、「クリエイティブ」の価値はさらに高めていきたいと考えています。

ハーバードのMBA取得時代にはDesign Continuumという、水を使わないモップや100ドルPCを開発したデザインファームでインターンをしていました。アメリカだとデザインファームの仕事はマッキンゼーと同様の数億円の価値が認められているのですが、日本だと不幸なことに「デザイン」という言葉が「外観の見た目のデザイン」に矮小化されてしまっていて、クリエイティビティの価値が経営層に伝わりにくくなってしまっています。

ただ、デザインファームのIDEOがエクイティを貰うビジネスモデルや、nendoがクライアントとジョイントベンチャーを作ったり新しいビジネスモデルを模索し始めているのは面白い動きだと考えています。これからデザインやクリエイティブにより競争優位性を語ることは増えてくることは間違いないです。それと同時に、デザイン側からクリエイティビティを競争優位に活かすという議論が出るだけでなく、経営側からも同じ議論が出てくると思っています。

歴史的にみると、競争のフロンティアは、有形のものからどんどん無形のものに移っていっています。まずはオペレーションの改善から、技術という無形資産のマネージメントに移行し、さらにその先にはより無形度合が高いクリエイティビティのマネージメントがあると思っています。Appleは、プロダクトだけではなく、CMなどのPR、アップルストアでのエクスペリエンスも含め、ユーザーとの接点全体を通じて、ユーザーのライフスタイル全体をデザインしたからこそユニークだったのです。ベンチャーキャピタリストとしても、クリエイティビティを活かしながらもスケーラブルなビジネスモデルを作るところに、イノベーションのフロンティアが眠っているように考えています。

面白いことに最近クリエイティブ業界の方々と、クリエイティブが競争優位の源泉にあるビジネスをいかにしてスケールさせるか、という話をすることが増えています。Takramやnendo、IDEOのメンバーも、デザイン側から同じことを考えていて、みんな見ているビジョンはおんなじなんだなぁって痛感します。

–現在社会における「自分の価値」をどのように考えていますか?

高宮:プロデューサー的に、まったく違う何かと何かを橋渡しをして、新しい価値を生み出すのが、自分の立ち位置だと思っています。その立ち位置が、自分にとっても快適ですし、そのニーズも高まっており、規模も大きくなっていると感じています。学生時代はサブカルチャーのクリエイターと一般のオーディエンス、現在だとメインストリームの機関投資家とスタートアップ、また日本と海外の架け橋——何かの真ん中に立っていたいんですよね。

メインストリームのど真ん中にいるのが居心地悪く、ちょっとだけ天邪鬼にサブカルチャー側にも片足突っ込んでいたい。でも、サブカルチャーどっぷりでもない。中途半端と言えば中途半端なんですが、真ん中にいて両側の気持ちがわかるからこそ翻訳ができるんだと思っています。帰国子女で6年間海外にいて、いじめられた経験などもしながら、周りに受け入れられたいという思いが強くなり、だからこそ自分と周りの違いを意識するようになったんだと思います。人は全員違うということを小さい時から意識していたんでしょうね。コンサバな部分もあるのでメインストリームも押さえたくなる。東大からコンサルというのも当時は少しずれていましたし、音楽好きでクラブに行くんだけど少しマイナーなジャズ系に行っちゃうとか、少しずらしたくなるんですよね。天邪鬼なくせに、慎重というめんどくさい仕上がりになっています(笑) 。

–だからこそ大胆に挑戦していけるのだと思います。そんな高宮さんの今後の野望を教えてください。

高宮:ベンチャーキャピタリストとして、支援先のスタートアップが上場すると嬉しいですし、自分もプロデューサーとして楽しいしやりがいがありますが、世の中のインパクトを考えた時に、自分がヒットを撃ち続けるのが本当にいいのか?もしかしてヒットが出続けるプラットフォームを作る方が世の中にインパクトがあるのではないか?ということを、答えはないのですが、自問自答しています。

日本を株式会社と捉えて、事業ポートフォリオを見ると、収益最大化を図るべき「キャッシュカウ」に追加投資してむしろ投資効率を悪化させているし、今後の「スター」に、「問題児」や「負け犬」にも投資を割けていません。そう思うと、日本株式会社では CIO(チーフ・インベスティメント・オフィサー)機能が重要なのではないかと思ったりします。1兆円規模のお金の流れを采配して、伸ばすべき産業に資金を集中させる–ベンチャーキャピタリストとして日本からメガベンチャーや新しい産業を生み出す山頂を目指すのであれば、究極の貢献は日本のCIO機能を担う人間になることかもしれなと考えたりしています。

なので、野望はと聞かれると「日本株式会社のCIOになりたい」かもしれません。

Interview & Text:西村真里子
Edit:市來孝人