Slush Tokyoレポート スタートアップエコシステムの「Call for action」

2019.03.08

スタートアップと投資家のミートアップとして、フィンランドではじまったSlush。東京でも2015年から継続的に開催され、今回で5回目となる「Slush Tokyo」。今年も、東京ビッグサイトにて2月22・23日の2日間にわたり、スタートアップ600名、投資家200名を含む約7,000名が参加して行われた。

今年のテーマは「Call for action」。スタートアップと投資家のみならず、国内外から参加している行政機関、大手企業なども含めて、具体的なビジネス展開を話し合い、実現させようという姿勢がうかがえた。

カンファレンスのオープニングでは、小池百合子東京都知事が登壇。起業家精神・イノベーションの重要性を語った上で、東京都として、スタートアップを可能な限り支援していくことを宣言した。

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オープニングアクトで、プレゼンテーションする小池百合子東京都知事

ブースエリアでも、海外からはフィンランド、エストニア、フランス(French Tech)が存在感を示し、一方で、横浜市や福岡市など日本の都市もブースを構え、行政としてスタートアップを盛り上げる姿勢を見せている。

大手企業については、オープンイノベーションプロジェクト「Future of Music」を発表したエイベックス、未来の家電に挑戦するパナソニックの新規事業「ゲームチェンジャーカタパルト」など、自社の持つ資産を活用して、スタートアップエコシステムへのアクションを始めている印象だ。

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エストニアStigoBikeのデモブース

以下、デモブースを回った中から、筆者が気になったスタートアップを5つ紹介する。

注目スタートアップ5選

1.AtHearth

AtHearthは、日本で賃貸物件を探す外国人に向けたオンライン賃貸マッチングプラットフォームで、内覧、決済、契約まで全てをWeb上で完結させることにより、外国人がストレスなく賃貸契約をすることを可能にしている。

不動産オーナーにとっても、英語で集客、内覧、契約、支払対応を代行してくれることは、グローバル化する都市の中で物件の稼働率を向上させるために有意義だ。また、パートナー企業とともに事業用ビルをリノベーションし、シェアハウスを運営するなど、コミュニティ作りも行っている。

今後の事業展開として、クラウドファンディングによる不動産の共同所有や、東南アジアでのサービス展開を視野に入れるなど、事業の拡張性も感じられた。

「いつどこで誰と暮らすかを選べる自由な人生を応援したい。世界のどこにでも自分の居場所がある」と語る紀野知成CEO

2.CASHOFF

CASHOFFは、ロンドンをベースにするフィンテック企業。様々な金融機関と連携し、利便性の高いインターフェースでオンラインモバイルバンキングを提供している。

ユニークなのは、ブランド側もこのシステムを活用することによって、個別ユーザーに対して最適な提案をすることが可能になる点だ。銀行取引データからユーザーの属性・行動を解析し、インセンティブも含めて商品提案を行うことで、ユーザー、ブランド双方にメリットがある取引が実現できる。

それらのトランザクションを機械学習により最適化することによって、ユーザー満足度が高まる設計になっているとのことだ。早ければ2019年中にも、日本でのサービスをローンチする予定という。

CASHOFFの画面キャプチャ。直感的で利便性の高いインターフェースだ。

3.Snips

スマートフォンやスマートスピーカーの登場により、音声認識市場は急速な発展を遂げている。日本語も含めて言語認識精度は向上しており、電子機器の操作や入力アシスタントとして日々の生活に入ってくることは必至。そこで直面する、情報セキュリティ問題に対して、解決策のひとつがSnipsの提供するサービスだ。

Snipsは、端末組込型のAI音声認識ソフトウェアを提供する企業で、端末で処理を完結させる。従来の音声認識デバイスに必要だったWi-Fiやクラウドを利用しない点が特長。APIを使用しており、カスタム可能でユーザビリティの高いインターフェースを持っていることに加えて、個人情報保護に敏感なフランス企業ということもあり、EUのGDPRプライバシー規制にも対応している。病院や航空機など、電波使用が制限される場面での活用シーンも想定される。

既に英語、日本語を含めて6カ国語に対応しており、2020年までに世界の主要言語の50%をサポートする予定とのことだ。

French Techとして連合ブースを出展。盛り上がりを見せていた。

4.DECARTE

過去に神経を抜いて治療した虫歯が、その後知らないうちに再発してしまい、不具合を感じて歯科医に行ったら「もっと早く来てくれれば」と言われた経験のある筆者として必要性を感じたのが、口腔内のセルフチェックができるDECARTEだ。

時間的、物理的制約により歯科医に定期的に通院できない人向けのソリューション。口腔内を撮影できるデバイスと、画像認識技術で情報を解析する専門アプリを通じて、ユーザーが自ら口腔内の状況を確認することができる。必要に応じて、画像データを歯科医と共有し、より良い診療に役立てることも可能だ。

DECARTEは、パナソニックの新規事業創造プロジェクト「ゲームチェンジャーカタパルト」の事業構想案のひとつ。自社の持つ、画像認識技術や販売ネットワークを活用できることも強みになるだろう。具体的な商品化については未定だが、SLUSH TOKYOでの議論を経て、今後の展開を検証していくとのこと。

データを蓄積することによって、AIを活用したアドバイスも可能に。

5.neeboor

neeboorは、ユーザーの日常的な生活圏をより面白くすることを目的にした、位置情報をベースとしたSNSだ。

就職や進学などで新しい街に引っ越した人は、自分の住む新しい街の情報やコミュニティを欲しているが、そういったニーズを満たすサービスは少ない。地域情報を発信するためのSHOUT、ロケーションベースの会話機能を提供するROOM、独自の位置情報を作成・発見できるSPOTなどの機能などを実装しており、数多くあるSNSの中でも、コミュニケーションの気軽さやカスタマイズ性にフォーカスすることによって、コミュニティへのエンゲージメントを高める設計をしている。

ベータ版では、1人当たり1日4回以上のアプリ起動をして、20分以上利用したという成果が出ている。更なる改良を重ねて、2019年6月に正式ローンチを予定している。

「make your living area hackable」を掲げ、地理的関係性から繋がりを作っていく。

女性のエンパワーメント、ダイバーシティ

小池東京都知事のプレゼンテーションの中でも、女性のエンパワーメントが成長ドライバーになると言及されたが、今後ダイバーシティはビジネスにとって必要不可欠な要素になるだろう。ベンチャーキャピタル(VC)業界が男性社会であることに疑問を感じ、自らミレニアム世代の女性としてSoGal Venturesを共同創業したポケット・サン氏は、自社の投資基準にダイバーシティ、ミレニアル世代を掲げている。

セッションに登壇した、社会的投資を推進するARUNの社長を務める功能聡子氏や、イスラエル、シリコンバレーでも活躍するシリアルアントレプレナーのカプリンスキー真紀氏など、女性のリーダーシップが強いドライバーになっている事例は、VC・テック業界にとって前向きな兆しである。

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ピッチコンテストでは、働く女性がライフステージに合った職場を探すことができるデータベースサービス「Clarity」がWINNERとなった。

以前と比較して、日本でもスタートアップを取り巻くエコシステムは進化を遂げていると感じた一方で、ダイバーシティ、サステイナビリティ、グローバルスケーラビリティ、失敗を許容する文化の醸成などについては、短期的なムーブメントとしてではなく、継続的に対応をしていく必要があるだろう。

日本で醸成され始めているエコシステムを今後どう昇華していくか――。参加者それぞれが、その継続的なアクションを考える機会となったSlush Tokyoという場を、当記事で少しでも感じてもらえれば幸いである。

Report:尾崎耕司
Edit:西村真里子

※トップ画像:©Ajoe_Wanch