SXSWレポート「街自体がプロトタイピングの舞台」「データトラッキングの今後」

2019.03.16
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毎年テキサス州オースティンで開催されるSXSW(サウスバイサウスウエスト)。インタラクティブ・カテゴリーを中心に、今年のカンファレンスやトレードショーのレポートをお届けする。

筆者はコンセプトショップや建築、プロダクトの設計をしているため、空間やリアルの体験デザインに活かせるヒントがないかとSXSWを訪れた。またデータの取得方法や、そのデータをどう使うかにも興味を持っている。今回は、その視点をもとにレポートする。

SXSW自体は1987年から音楽フェスティバルとして始まり、現在は音楽、映画、インタラクティブ、コメディ、ゲームと多岐にわたるカテゴリーで街全体を巻き込んだフェスティバルに拡大している。日本では考えられないような街全体を巻き込む、まさに“フェスティバル”。これほど大きな規模であれば、訪れる人が100人いたら100通りの読み解きができるだろうし、むしろ視点の多様さこそが本質なのではないかと思う。

視点1)変化し続けるプロトタイピングシティ

到着して最初に、同行したSXSW経験者が「前に来た時に比べて、街がすごく変わっている」と語った。つまり、会場となるオースティン市自体が、SXSWの影響で経済が潤い、その周辺エリアがどんどん変わっていて 、15年くらいで激変したのだ。SXSWのイベントも、そして街自体も、実験や検証を繰り返している印象を持った。

例えばイベント中、距離のある移動はUberをはじめとするライドシェアサービスを使っていたのだが、その定着までにも数年の検証があった。Uberが導入された後、オースティン市議会はセキュリティや徴税の確実さの観点から運転手の指紋登録を義務付けようとしたがUberは拒否。最後は市民投票までもつれ込んで指紋登録が可決された。ところがUberは突っぱねてオースティンから撤退。なんと最後は議会側が折れて決定が覆ったという。

参考:(オースティンの顛末がまとめられたBBCの記事)
https://www.bbc.com/news/technology-41450980

あるいは電動自転車のライドシェアとしてUberと提携するJUMPやLimeなどがいたるところで使えた。時に轢かれそうになったりと危なっかしい面もあったが、特に会場周りではバリバリ走っていて、その感じもとても楽しい。このSXSWに合わせてなのか自転車は膨大な量が用意され、ヘルメット着用や交通ルールも結構ゆるいようだ(しかし対応エリアを超えて駐輪すると罰金が発生するなど厳しい側面もある)。

朝はきっちり並べられた電動キックボード。1日が終わる頃にはかなり無秩序に駐輪されていた。

今後も、実際に使いながら検証し法的な部分ももっと整備していくのではないだろうか。そういった実験が行われていることも含めて、とても楽しいオースティン。日本各所のカンファレンスやフェスでは見られない光景だった。

視点2)データガバナンスの行方

毎年、アナリストがSXSWでテクノロジートレンドを発表する。特に「何をデータとして扱うか」という視点の変化は毎年発表され、近年はブロックチェーン、顔認証、生体認証などが話題だ。つまりどんなデータをどう扱うかも含めてのデータトレンドである。今年は遺伝子データの話が非常に多く、中でもその取り扱いにおけるデータガバナンスの話をよく聞いた。

DNAチェックで健康リスクを予測するというものは日本でも一部で浸透しつつあるが、その「究極の個人情報」を誰が、どう管理して、どう堅牢性を保持するか。スタートアップのピッチイベントでも、ブロックチェーンでDNAデータを保持するNebula GeometricsがBest of showに選ばれたし、カンファレンスでは国が遺伝子データを管理する可能性も示唆された。昨年のFacebookのデータ流出の話も含めて、「誰にデータを渡していいのか?」が争点になっていた。

Nebula Genomics(https://www.nebula.org/)のピッチ

視点3)エモーショナルデータは誰のもの?

その中で自分が面白いと感じたのは感情データの話だ。既にカメラやスマートスピーカーのAIは、かなり高度な感情のトラッキングができるようになっている。例えばロボット部門でイノベーションアワードを受賞したアフラックの、小児がん患者の気持ちの浮き沈みを感知して感情ケアをするロボットや、カンファレンスで紹介された、ショッピングカートの持ち手にセンサーをつけて心音や手の湿度などで購買行動と感情を紐づけるウォルマートの特許。AmazonがAlexaで高度に感情も検知できるようになり、アメリカで一番規模のあるホームビルダーと提携して、家での行動データのみならず感情データまでも保持しようとしている動きなどがそれにあたる。

感情のデータの重要性が増すにつれて、データをとるプレイヤーの面子が結構変わるのではないかと個人的に思っている。特に感動させる・楽しませる・励ますなどのポジティブに作用するエモーショナルデータは、ただ買い物をするだけ・生活をしているだけで手に入るものではないはずだ。エモーショナルデータの台頭で、古くからある、感動を生み出すことができるプレイヤーが急に有利になるという場面に出くわすかもしれない。かつてAppleとNikeがウェアラブルデバイス「FuelBand」を提供していたが、Nikeのようにファンがたくさんいたり、エンタメの技術を持つ企業だからこそ得られる特別なデータというものが出てくるように思う。Amazonがコンテンツに投資をしているのもそういう側面からではないか。

トレードショーに出展されていた、スマートカメラを組み合わせた自律型ドローン。セキュリティメインの用途を想定しているようだが、画像認識が積まれているので、いじればエモーショナルデータのトラッキングもできそう。

Popupは、エモーショナルテストへ

短期間でコンセプトへのエモーション反応が検証できる方法論として、Popup(期間限定のイベントやショップ、展示)の有用性がカンファレンスでも紹介されていた。バーニングマンの運営者やデビッド・ボウイの展覧会をやっていた人々がDesigning Emotional Experienceというテーマでパネルディスカッションをしていた。確かにPopupをエモーショナルエクスペリエンスのデザインという文脈で考えると合点がいく。バーニングマンの、「期間中ものを売ったり買ったりができない」というコンセプトが強調されていたが、確かにこのコンセプトは必然的に、金銭とサービスのやりとりというドライな行動ではなく、どうしたって感謝・感動・疲弊などの感情が渦巻くイベントになるところが鋭い。またボウイ展でも過去の衣装やビジュアル展示を中心とした回顧展示にするのではなく、ボウイの音楽性の体感を付与したという話もあった。

一方、彼らの体験価値の計測基準はまだSNSを中心とした盛り上がりと、その先のメディアへの露出にとどまっていた。つまり短期的に尖ったコンセプトを世に問う方法としてのPopupの有用性が示されているにとどまっていて、スピーディーにPDCAを回して、検証できたコンセプトを拡大する方法論としてはまだ確立されていない様子だった。

個人的には、先ほどのエモーショナルデータのトラッキングとPopupの組み合わせは非常に可能性があると思う。コンセプトの可能性を体験のプロトタイプにし、Popupで検証、有用性が証明されれば大きく投資をして店舗やサービスに活かしていくという方法は早急に試してみたいと思う。

バーニングマンの事例紹介
ボウイ展の体験演出の紹介

テクノロジー観が変わるフェスティバル

SXSWに参加して変化したのは、自分の中のテクノロジーに対するスタンスだ。ブロックチェーンを活用した様々な新規事業。自分が予測すらしないものがデータとしてやりとりされる状況。新しい技術を使ったサービスが実際に使われているオースティン。そんなテクノロジー事例に短時間かつ大量に晒されることでテクノロジー観が変わる機会となった。

空間というリアルを扱う仕事を請け負っている自分にはせいぜい「テクノロジーのチラ見くらいに留まるSXSW」となるのではないかとの当初の懸念は一掃され、今はもっと自分の仕事でもテクノロジーを使いこなしたいという思いに至っている。エモーショナルデータを実践で扱う方法、そしてAIを活用して定量的に計測する方法も理解できた。

そこで、実空間を扱う自分の仕事へのテクノロジーの活かし方を、思考の訓練として、SXSWの熱が消えないうちにアイディアフラッシュとして考えてみた。例えばAIカメラを設置してエモーショナルデータを取る方法でいえば、現在取り組んでいる常設の美術館の展示プロトタイプを小規模かつ高速で作り、エモーショナルデータで検証してブラッシュアップすることも考えられるだろう。そして公共施設のリノベーションでは、事前のリサーチとして既存の施設にセンサーを設置して現在の使われ方や、公聴会では聞けないサイレントマジョリティの場所への思い入れを調べる。また、ハイブランドのショップでそのブランドを買うときの特別な気持ちを精査し、Popupショップで実際にクイックに検証までをする。

このように自分の仕事への活かし方とそれによって得られるものに想いを馳せているのが帰国した今だ。SXSWは自分にとってのプロトタイプとデータの重要性を理解できた大きなモメンタムとなった。

Report:南木隆助
Edit:西村真里子

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