エンジニア×インフルエンサーで挑戦する、SNS時代のファッションブランド–PATRA・海鋒健太

2019.04.09

先日第一期プログラムが完了したスタートアップ支援プログラム「GRASSHOPPER」。当サイトでは、クリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材も行い、スタートアップとクリエイティブの関係性について探っていく。

ビッグメゾンとも、ファストファッションとも、セレクトショップとも異なる、まったく新しいビジネスでファッション業界に新しい風を吹き込むPATRA。エンジニア出身の海鋒健太が女性向け動画メディア「PATRA」から始めた同社は、いまや社内発ブランド「mellowneon by PATRA」に加え、インフルエンサーがプロデュースする自社ブランド8件を運営するマーケットプレイス「PATRA MARKET」も展開。SNSが暮らしの中心となった時代にPATRAが描く、ファッションブランドのこれからや、未来の買い物体験を聞いた。

ニーズ細分化の時代に、インフルエンサーがモノを売る“無限の可能性”

ー起業のきっかけ、そして事業領域として女性向けのメディア・アパレル分野を選んだ理由を教えてください。

海鋒:大学在学中にフリーのエンジニアとして活動し、それが拡大して法人化したというのが起業のきっかけです。2016年頃、C CHANNELを筆頭にした動画の波に乗ってみようと、YouTubeとInstagramを使った女性向けの分散型動画メディアを始めました。その中で、それまではURLも載せられず商品の認知広告として利用されていたInstagramに、コンバージョン広告としての可能性を感じていました。

当初は化粧品会社を中心にマーケティング支援をしていたのですが、せっかく自社メディアがあるのだから、自社で商品の開発〜販売・宣伝まで垂直統合した方が利益率が高く、ビジネスとして広がりがあると思い、2018年1月に自社ブランドとECを立ち上げました。

ー分散型動画メディア、アパレルECと立ち上げる中で、どんなきっかけで「インフルエンサーとのブランド作り」に着目したのでしょうか?

海鋒:初めに立ち上げた自社メディアが成功した経験を通じて、今後は個人のニーズの細分化に寄り添うような、比較的小さなブランドが好まれる時流の到来を感じました。その核となるのが、SNSでマイクロコミュニティを抱えている「インフルエンサー」だと思ったのがきっかけです。

しかし、インフルエンサー側には大きな課題があります。多くのインフルエンサーの収益は広告のみで、案件の有無によって来月の収入はいくらになるかわからないという不安定な報酬体系の中で、不安な毎日を送っていることです。中でも、再生回数に応じて利益が上がるYouTuberと異なり、Instagramは純広告と同じ仕組みなので、案件がないと収入もゼロという過酷な労働環境にいるインスタグラマーもいます。

しかし彼女たちには、既存の広告と異なり人を動かす力があります。いかに彼女たちのブランド価値を高めながらお金が生めるかを考えた時に到達したのが、インフルエンサーがブランドを持ちモノを売るという物販ビジネスでした。ビジネス的側面とインフルエンサーの抱える課題がうまく合致しました。

「ECで服を売る」のではなく「コミュニティで服を売る」

ーほとんどのインフルエンサーは、ブランドの立ち上げや商品企画は初めての経験だと思います。売り上げも意識しなければならない中で、どんな協業体制を取っているのでしょうか?

海鋒:インフルエンサーのクリエイティビティを尊重しながら、どうビジネスに落とし込んでいくかが難しさであり、PATRAの強みでもあります。既存のアパレルブランドとタレント・モデルさんが商品開発をする場合、あくまでも芸能事務所との業務提携というケースが多いので、取引先という関係になり、メーカー側が意志を主張できないことも多いです。一方PATRAでは、現在4名のインフルエンサーは契約社員として働いています。取引先の関係ではなく、同じチームになることで、こちら側からNOを出すこともできるようなフラットな関係を築けています。

ーデザイナーズブランドでもファストファッションでもなく、この時代にインフルエンサーがブランドを持つ・服を売ることの強みは何ですか?

海鋒:コミュニティが生まれる強さがあります。驚いたのは、自社ブランドのプレスのアルバイトの子たちがライブコマースで服を紹介すると、一般人であるその子たちにファンがついて、イベント会場でファンレターをもらったり写真をせがまれたりしているんです。この現象には、小さいブランドだからこそ生まれるコミュニティの魅力を感じました。

服のコモディティ化が進む時代は、どのブランドを選ぶかという点で意味付けが必要です。洋服が物理的に身につけるものを超えて、「そのコミュニティに属するためにこの服を着る」といった体験にシフトしてきている印象があります。なので、我々のビジネスも、単純にECで服を売るのではなく、“コミュニティで服を売る”ことを意識するようにしています。

ー海鋒さんが、PATRAを通じて描きたい世界観はありますか?

海鋒:テクノロジーの力で、ファッションリテール界を変えていきたいです。現在PATRAでは、商品の調達〜販売〜マーケティングまで、すべての機能を社内で実行できるシステム開発に注力しています。アパレル事業をやってみて気づいた業界のさまざまな無駄を省き、それぞれの過程をシームレスに統合していく。さらに、その資産として溜まっていく川上から川下までのデータベース一式も活用していくことを目指しています。

とはいえ、どれだけ多くのデータを保有したとしても、商品企画や世界観を描くといったクリエイティブの部分はデータでは弾き出せず、そこはインフルエンサーならではの強みです。なので、我々のシステムやデータ活用によってブランド立ち上げに付きまとう専門性を排除していき、クリエイティブのタネを持つインフルエンサーが挑戦しやすい世界を作っていきたいです。

自分の存在意義は「女ゴコロくすぐる感性を、いかにビジネスに落とし込むか」

ーエンジニア出身かつ男性の海鋒さんが、女性向けのビジネスや企画を作り出す際に、意識していること・重視していることは?

海鋒:Instagramなどを使ったトレンド情報のリサーチを徹底しており、27歳男性の中では一番追いかけている自信があります。また社員の特性上、常に新しい情報が入ってくるので、アプリでもカフェでも、オススメされたものは毛嫌いせず、まずフットワーク軽く行ってみる・試してみることを大切にしています。若年層の情報にアプローチできるという点は、先輩起業家の方には真似しづらい20代の自分の強みです。

あわせて、常にトレンドに触れるだけではなく、そういった女子の心をくすぐる感性的な要素をビジネスに落とすのが自分の役割。感性のタネを見つけてくる部分はインフルエンサーや社員を信頼し、自分は業界全体を客観視できる立場として、きちんとビジネスにしていくことこそ存在意義だと思っています。

ースタートアップ・アパレル企業・ブランドというさまざまな側面を併せもったPATRAを成長させていく中で、海鋒さんにとってのビジネスの「成功」や「失敗」の定義はありますか?

海鋒:PATRAはあくまでも物販ビジネスなので、売り上げ利益が重要なものさしです。スタートアップというと、黒字化よりもユーザー数の増加などが重視されがちですが、我々は在庫ビジネスなので、売り上げにどれだけ反映されたかをシビアに見るようにしています。たとえば、ルミネやラフォーレでポップアップストアをオープンする際も、PR効果や箔がつくなどブランド貢献効果に目が行きがちですが、きちんと利益が残るかどうかを重視しています。

ー最後に、今後の海鋒さん自身の夢や野望を教えてください。

海鋒:トレンドのスタンダードを目指したいです。いまは時代の波に乗ったビジネスとして一時的に話題になっていますが、また「服は店舗で買う」「服はファストファッションでみんなと同じ安いものを買う」という時代に戻ってしまうのではなく、「自分の好みのものを買う」「個人でブランドを作れる」という、PATRAならではの世界観やライフスタイルを次の時代に定着させたい。

もうひとつは、モノを買うところに“便利”とは異なる意味づけをし「買い物をエンタメ化」していきたいです。これまでのショッピングでは、注文したらすぐに届くという利便性ばかりがフォーカスされていましたが、僕たちのブランドは注文から到着まで2週間かかったとしても、到着を楽しみに待ってくれるユーザーさんがいます。“便利”を超えたインターネットを突き詰めることで、服を着ることや買い物自体が楽しくなる世界を夢見ています。

Interview & Text:長谷川きなみ
Edit:市來孝人