フランスのスタートアップエコシステム概論&イノベーションハブ「Station F」に潜入【現地レポート】

2019.06.04

前回記事でレポートした、フランス・パリで開催された大企業とスタートアップのオープンイノベーションの祭典「VIVA Technology 2019」(以降「VivaTech」)。もう一つ、現地のスタートアップシーンを象徴するのがインキュベーション施設「Station F」だ。

当記事ではこの施設への潜入レポートとともに、フランスのスタートアップエコシステム概況についてもお伝えする。

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フランスのスタートアップエコシステム

伝統的にフランスは大企業が多く、保護的な行政が続いてきたが、今やスタートアップに対する絶妙なエコシステムが、政府を中心に構築されはじめている。その集大成が、「VivaTech」であり、「Station F」などのインキュベーション施設だ。

それを推し進めたのが、エマニュエル・マクロン大統領だ。民間の投資銀行に勤務していた生粋の経済人であり、フランスが成長するためにはスタートアップを育成していくことが必要と、経済産業大臣を経て大統領となった今まで一貫して、10年以上にわたる政治面からの支援を続けている。

「Station F」をはじめとする大小様々なインキュベーション施設の設置運営を後押しし、スタートアップに対するビザ発給を推進。ハード・ソフト両面でスタートアップが集まって活動しやすい環境を作っている。当初は政権内部はもちろん、民間企業からも冷ややかな反応であったそうだが、実績に伴って産官学が同じ方向を向くように変化してきた。

実際、2017年の「Station F」開設時には今ほどは入居が難しくなかったそうだ。今では「104」など他にもインキュベーション施設が多数あるにもかかわらず、入居の倍率はかなり高い。そして、そのスタートアップエコシステムがうまく回っていることを体現できる場所として「VivaTech」を活用していると感じた。

駅をリノベーションした巨大施設「Station F」

パリ市内に目を向けると、大小様々なインキュベーション施設があることに驚かされる。代表的なものは「104」と呼ばれる、アートと地域住民とスタートアップの開かれたコミュニティ型施設や、かつての駅をリノベーションして作られた巨大施設「Station F」が挙げられる。今回はPlug and Play Japanの協力を得て「Station F」を見せてもらうことができた(Plug and Playは「Station F」にアクセラレーターとして入居している)。

入るとまず圧倒されるのがその大きさと「抜け感」である。ドーム型の駅舎をリノベーションしたその構造は地下1階を含む4層でできており、中央が巨大な吹き抜けとなっている。そしてところどころにアート作品が展示されている。

地下は入居者用のロッカールームやジムで、Groundフロアから2階(日本で言う1階から3階)の左右にLVMH、Facebook、Google、adidas、NAVERなど様々なアクセラレーターが入り、それぞれが15社から20社程度のスタートアップを抱えている。3棟で構成されており、入り口のある棟よりもさらに巨大な2棟目と合わせると実に数百社のスタートアップがここに集っていることになる。そして一番奥の3棟目はレストランスペースとなっており、カフェや食事はもちろん、夜はパーティーを開いたり、ここで打ち合わせをしたりと多様な使い方ができる。

この施設を見て感じたことは大きく2つある。1つ目は、レストランスペースはもちろん、個々の打ち合わせブースやロッカールームに至るまで、「Station F」全体がクリエーティブディレクションされていること。さすがデザインの国!と思わせるような一貫した世界観が出来上がっており、仕事に対するモチベーションが上がりやすい環境になっていた。

そして2つ目はフランス政府・パリ市の強力な後押しが感じられること。Station F」は11区というパリ中心部から2~3キロ圏内のアクセス良好な場所にある。日本や諸外国の場合、1社のアクセラレーターが施設を構え、そこにスタートアップを入居させることが多いのだが、行政が運営に関わることで数十社のアクセラレーターが入居するという規模となっている。地域住民からは当初、施設の設置に反対されたとも聞くし、現在も運営方法について課題もあるようだが、それでもこれだけの規模でスタートアップが集まれば、良い化学反応が起こりやすいだろう。

日本に置き換えて考えてみると…

「VivaTech」「Station F」を中心に現地事情をお伝えしてきたが、ヨーロッパのテックリーダーを目指すというフランスの姿は、「ものづくり大国」と自負する日本にも重なる部分があり、学ぶべきことが多い。一方で今年の「VivaTech」日本企業の出展状況を見るとSoftBank Roboticsとスタートアップ企業数社の出展に留まっており、そもそも国内では「VivaTech」自体や現地事情の認知も低い。先に触れたマクロン大統領のリーダーシップをはじめとした国のバックアップ体制やスタートアップエコシステムがどう構築されてきたのかを紐解きながら、いかに日本流の“型“を作っていけるかがこれからの課題だと言えるだろう。

また、改めて「VivaTech」にフォーカスして総括すると、大企業(他の国家・都市含む)、政府、スタートアップそれぞれの利害を絶妙なところで一致させ、その上でホスト国フランス、というポジションをうまく取りに行っていると感じた。もちろん関係者によると様々な課題があって、特にホスピタリティの面では改善の余地が大きいと感じた。しかし課題がありつつも一つの方向性を示し、そこに向かって様々なことを形にしてきたフランスという国の底力を感じずにはいられない。

日本で同様なことをするなら、「VivaTech」の仕組みに日本人が得意なホスピタリティを加えていくことで、世界でも唯一無二のエコシステムが作れるのではないかと思う。例えば、ホスピタリティを活かしてコミュニティディレクターがスタートアップ同士のコラボレーションや地域との連携などを加速させるなど「人」をもっと介在させたり、「VivaTech」ではランチの選択肢がファストフードのみだったところを日本食を振る舞うなどすれば、出展者も来場者も喜ぶイベントが成立できるのではないか?――などと、自国の強みを改めて考えるキッカケともなった。

Report:木下元