フランス×スタートアップの勢いを象徴するイベント「VivaTech」とは【現地レポート】

2019.06.03

フランス・パリで開催された大企業とスタートアップのオープンイノベーションの祭典「VIVA Technology 2019」(以降「VivaTech」、2019年5月16~18日開催)はヨーロッパ随一のテックカンファレンスとして4年目を迎えた。今年は公式HPによると125カ国から、13,000社のスタートアップ企業が参加し、会期中には124,000人が会場を訪れたとのことで、いずれも過去最大の規模となった。

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“テクノロジーによって世の中を良くする”視点がベースに

メイン会場のホール1では大企業とスタートアップのオープンイノベーションの場となるLABやアクセラレーターのブースが設置され、新設されたホール2ではビジネスセンターをはじめとしたネットワーキングスペースと、「Better Life」をテーマに自然との共生を意識した「Green Tech」が特集された。そしてホール1に隣接したセッション会場「Stage One」では、若手技術者たちが課題と向き合うハッカソンやピッチイベント、大企業の経営者が登壇するステージなどが開催され、初日から熱気と興奮に包まれていた。

何度も目にした「Tech for Good」(テクノロジーをより良き社会のために活用する)の言葉に代表されるように、社会課題解決型の視点がベースにあり、“共創”の意志を強く感じたことは新鮮な驚きであった。

生活に根付いた業種のトップ企業が出展

「VivaTech」の出展社を見てみると、Google、Orange、Facebookなどのテクノロジー企業だけでなく、La Poste(郵便)、SNCF(鉄道)、RATP(運輸)、Accor(ホテル)、Citroën(自動車)、LVMH(ラグジュアリーブランド)、L’Oréal(美容)など、生活に根付いた業界・業種のトップ企業が多く名を連ねている。

例えばLVMHでは、今年1月のCESでも注目されたスタートアップ「Care OS」をLVMHブース内で紹介していた。AI搭載のスマートミラーで、様々なパートナーが参画することで、 ヘアカラーや口紅・サングラスなどの商品を鏡の中に実際に試したかのような姿で映し出すことができたり、子供の歯磨きのブラッシングをサポートしたりと、これからのライフスタイルを描くものだ。またSnapchatとのコラボレーションで新しいブランド体験ができるブースがあったり、定番ボストンバッグのモノグラムがレインボーカラーに光るプロダクトを展示したりなど、SNSを意識した展示も同時に行われているのが印象的であった。

CareOS出展の様子

大企業とスタートアップのコラボレーションの場

フランスや欧州圏内はもちろん、中東やアフリカ、アジアなど世界中のスタートアップがここに来ている。また、スタートアップとのマッチングの場として活用される「VivaTechチャレンジ」と呼ばれる仕組みが印象的だ。LVMHなど、そうそうたる企業が自社事業や「Tech for Good」に関する課題を設定し、応募してきたスタートアップを選定、選ばれし数十社のスタートアップをLVMH主要ブランドのルイ・ヴィトンやプラダなどと並べて自社ブースの中で展示解説をしている。大企業としては自社のリソースだけに頼ることなく将来につながる展示が可能で、また有望なスタートアップについてはその後、資本業務提携など様々な契約がありうるそうだ。

英国、南イタリア、スペイン、ベルギー、ルクセンブルクなど欧州各国やアフリカ、韓国、中国(上海・南京)なども国単位・リージョン単位でブースを構えており、それぞれのスタートアップを連れてきていた。スタートアップのビジネスチャンスに繋がるのはもちろん、自国や地域の取り組みをアピールすることもできる。更に中国ブースにおいては「Station F」をパートナーの一社に迎えており、フランスとの連携が窺えた。CESは大企業向けのイベント、SXSWはスタートアップの祭典とすると、このVIVATechは大企業(特にTechカンパニーに限らず)とスタートアップのコラボレーションが特徴的であると思う。

開催国フランスも、国としてのブースではなくパリ市やブルゴーニュ、コート・ダジュールなど地域単位で他国と同規模以上のかなり立派なブースを構えているのが印象的であった。

土地に根ざしたブースの雰囲気も面白い。例えばコート・ダジュールのブースは南仏の海岸をイメージさせる作りであったし、ブルゴーニュのブースでは昼間からワインも振る舞われている!パリなどの大都市だけではなく、地方も含めてフランス全土でスタートアップとの協業を前向きにとらえている姿勢がとてもポジティブである。

また、特に旧宗主国でフランス語が通じる西アフリカ方面の国々のスタートアップを集積したアフリカテックをフィーチャーしているのは「VivaTech」の特徴として興味深い。かつてフランスの植民地であったセネガルや、公用語の一つがフランス語であるルワンダ(旧ベルギー植民地)などがブースを出展、エネルギー問題などアフリカが抱える社会課題を解決するためのテクノロジーや取り組みが紹介されていた。

大統領自ら、開催前夜のディナーに招待

「Stage One」は普段コンサートなどが開かれるドーム型の施設で、世界的に著名なVIPスピーカーが登壇していた。今年の基調講演はエマニュエル・マクロン大統領、カナダのジャスティン・トルドー首相、アリババ創業者のジャック・マーとそうそうたる顔ぶれでフランス政府の強力な後押しが感じられる(ちなみに昨年の基調講演にはマーク・ザッカーバーグが登壇していた)。

また毎年大統領自らVIPたち1人ひとりにインビテーションを送り、「VivaTech」開催前夜、ディナーに招待しているという。まさに国を挙げてのイベントであることが分かるだろう。その背景にはフランスの高い失業率を打破するために起業を促進し、新しい雇用を創出するという政治的な目論見も垣間見えるが、スタートアップ支援の旗振り役としての徹底した方針と信念に基づく活動には目を見張るものがある。

全体を通したクリエーティブディレクション

また、「VivaTech」全体を通してクリエーティブディレクションがされていたことも印象的であった。これは主催がLes Echos(メディア)と世界第3位の広告代理店ネットワークPublicisであることによると思われる。特にPublicisのモーリス・レヴィ取締役会議長の存在はとても大きい。

数年前にカンヌライオンズなどすべての広告賞からの撤退を決定し、AIベースのグループ内タレントマネジメントシステム「マルセル」の開発に注力していたのは周知の通り。その当時はあまり気に留めていなかったが、レヴィ議長は開会の挨拶に留まらず、スピーカーの紹介や様々な場面で登場し、存在感を発揮していた。

次回記事では、「VivaTech」とともにフランスのスタートアップシーンの象徴と言える、イノベーションハブ「Station F」や、現地エコシステムについて解説する。

Report:難波公人+木下元