カンヌに出展「イスラエル・イノベーション・ハブ」 関係者に聞いた自国のスタートアップ事情・強みとは?

2019.07.09

6月17〜21日に開催されたクリエイティブの祭典「カンヌライオンズ2019」。当記事では現地でスタートアップブース「イスラエル・イノベーション・ハブ」を出展するなど存在感を発揮していたイスラエルの最新事情に注目。政府機関やスタートアップなど、関係者に現地でインタビューを行い、イスラエルならではの強みを探った。

昨年に引き続き、イスラエル経産省主導のもと設けられたブースでは、同国のスタートアップ計8社がビジネスマッチングや情報交換、打ち合わせを行い、常時にぎわっていた。

1948年に建国されたイスラエルは、ベンチャー企業が8,000社超存在しているといわれている。イスラエルはインターネット技術、特にサイバーセキュリティで強みをもつことは多くの人が知っているだろう。

政府関連機関担当者が語る、イスラエルの強み

まずはイスラエルのビジネスマッチングを推進している政府関連機関、The Israel Export & International Cooperation Institute(以下IEICI)のNoa Avrahami氏にインタビュー。このIEICIは日本でいう日本貿易振興機構(JETRO)にあたる。ちなみにNoa氏もかつてスタートアップを1つ立ち上げ、すでに売却済みであるという。

―IEICIの業務内容を教えてください。

Noa: IEICIが目指すのはスタートアップのグローバル企業化です。ビジネスモデルとしてはWin-Winな関係を目指したビジネスマッチングであり、テクノロジーやプロダクトのスカウト、ジョイントベンチャー、イスラエル企業と海外企業との戦略提携などを行います。IoT、ブロックチェーン、広告含むクリエイティブテクノロジー、センサー技術など幅広い産業分野を担当しています。

ラスベガスのCESやバルセロナのMWC、ヘルシンキのSlushに毎年ブースを設けるほか、イスラエル視察団の受け入れや、ビジネスミーティングのセッティングを行っています。MWCには65社の企業を連れて行きました。円滑なビジネスのため、世界各国にある営業所のメンバーと協力しています。日本には東京と大阪に1箇所ずつ拠点を置いています。


―IEICIデジタルメディア技術担当マネージャーのNoaさんから見て、イスラエルがサイバーセキュリティに強いのはなぜだと思いますか。

Noa: イスラエルには兵役があり、軍のもつ「インテリジェンス」技術が大きく関与しています。原則として女性は2年間、男性は3年間を務めあげる義務があり、そこでインテリジェンス・ユニットに配属になった人たちが素晴らしいエンジニアたちとなり、兵役後は誰もが知る大企業からスカウトされるような存在になります。もはやベスト・スクールと言ってもいいかもしれません。

―IEICIのビジネス誘致/宣伝活動を支援するエージェンシーはありますか?

Noa: そういったエージェンシーはありません。きっとこれが我々に足りていない点かもしれないと思います。VCやアクセラレーターをつなぐ場をセッティングするという活動のみにとどまっていて、特に一貫したスローガンやキーメッセージも特にありません。資金源は税金であるため、スタートアップにしか費用をかけさせてくれないという風潮もあります。しかしより多くの人に我々の活動を知ってもらうためには、やはり広く告知することをしなければいけないと思っています。

筆者は、PRプランナーとして日本の政府機関とともに海外企業とのビジネスパートナーシップ促進のために日本企業やスタートアップの海外への広報戦略を日々練っている。そのため、Noa氏の業務内容や課題意識に強く共感した。イスラエルのスタートアップ企業は世界規模の見本市への出展と個別のビジネスマッチングにとどまらず、狙う国や地域に届く一貫した強いメッセージを最適なメディアに乗せ発信することで、ますます国境を越えていくのではないかと感じた。

マーケティング支援のスタートアップが語る、データの活かし方

続いて、マーケティング支援のスタートアップとして「コンシューマー・インテリジェンス・プラットフォーム」を提供しているKonnectoのCOO&Co-FounderであるMarni Mandell氏にインタビュー。Konnectoはカンヌライオンズの「イスラエル・イノベーション・ハブ」に2年連続での参加だ。

―Konnectoのプラットフォームについて教えてください。定量・定性調査から得られたものをどのようにブランドに活用してもらうのですか。

Marni: 機械学習ツールを用いて消費者の嗜好、競合他社の評価、ブランドに対する感情を分析し、ブランドに提供しています。Konnectoはコンシューマー・グループのデータを蓄積することで、ブランドの長期的なターゲット・オーディエンスへの接触を支援し、行動指針となる洞察を生成してくれるAI駆動プラットフォームです。

―御社の情報の収集方法でユニークなものはありますか。

Marni: TwitterやFacebookなどの投稿を集めるソーシャルリスニングだけでは不十分だと思っています。今や人々はネット上よりも個人間で多くの情報を発信していると考えるためです。我々の情報収集方法としてユニークなのは、個人の行動データを、「フル・トランスペアレンシー」で収集することです。具体的には、我々のプラットフォーム上にアクセスしてくれた個人にデータへのアクセスとその収集に対する許諾を得ます。その際、懸賞やAmazonギフトカードなどのインセンティブを付与することで更なる参加を促します。

―どういった経緯でKonnectoを立ち上げたのですか?

Marni: 顧客のニーズがあったからです。もともとはロイヤルティプラットフォームを提供していたのですが、9か月ほど経ったころに顧客から集まったデータから見えてきたインサイトを還元してほしいといわれました。今では、集めたデータをブランドのマーケティングに使える形に翻訳するという役割を我々が担っています。

―Konnectoのサービス提供地域について教えてください。

Marni: イスラエルで誕生したスタートアップですが、今はイギリス、アメリカ、ドイツ、ブラジル、メキシコなどでサービス展開をしているほか、新たな場所へと拡大しています。事業自体は11~12人くらいの少人数で行っています。

―Konnectoの今後の展望をお聞かせください。

Marni: 市場調査会社Nielsenのようなビジネスモデルが理想。企業が毎日使うプラットフォームになってほしいと思っています。我々のキーワードはNew disruptionsです。ロケーションデータでもソーシャルリスニングでもクレジットカード使途等でも、情報をそれぞれ別個で見るのではなく、それぞれの境界をなくして(=disruptして)複合的に一緒に入れ込むことで、人々の消費行動を理解します。

―日本での展開を考えることはありますか。

Marni: 以前、別のスタートアップをやっていた際に日本でのサービス展開を試みたことがありましたが、日本人顧客に受け入れられるためには非常に高いレベルのサービスを提供する必要があると学びました。我々はいま成長過程で、きわめてクリアな戦略と日本でのビジネスを支える能力が十分に備わっているとはまだ言えないのですが、常に興味があります。

Marni氏のパッションあふれる話しぶりは、すぐに日本でも受け入れられそうな空気をまとっていた。2018年5月にEUで施行されたGDPRなどデータガバナンスが整備されていく中で、マーケティングに必要なデータの収集はますます難しくなるのでは?といった懸念に対して、Marni氏は情報を“disrupt”することによるポジティブなソリューション提示を行っている。

サイバーセキュリティスタートアップが語る、今後の展開

イスラエルの技術の中でも、特に最大の強みといわれるサイバーセキュリティ。ここで聞いておかねば勿体ないと、サイバーセキュリティソフトウェアを提供するCyabraのアドバイザーを務めるDavid Nabet氏にもインタビュー。

―事業内容を教えてください。

David: FacebookやTwitterなどにおけるフェイクニュースを判別して、その発信源であるバッド・アクター(厄介者)や悪質ボットを数秒で検出し、ブロックすることができます。プロフィールや発信地などの詳細を出すことも可能です。そのため、ソーシャルメディアで起こりがちなスノーボール・エフェクト(悪い情報や噂が雪だるま式に大きくなっていく)も数秒のあいだに防ぐことができます。

―クライアントはどの業界ですか。日本でもサービスは展開されますか。

David: 自動車から、銀行、保険、FMCG、どんな業界でも担当できます。民間企業だけでなく、政府との仕事も行っています。日本に関しては、我々は創立1年半という若さゆえ、まだ進出できていません。

―なぜイスラエルの経産省がCyabraをカンヌブースに招聘したのだと思いますか。

David: イスラエル総保安庁による「ユニークなセキュリティ関連スタートアップ7社」にCyabraが選ばれていることや、イスラエルで名門のテルアビブ大学が立ち上げたVCであるTAU ベンチャーズから100万ドルの投資を取り付けたことが理由の一つだと思います。

―今後どのように事業を拡大していきたいですか。

David: まずはブランドとの直接業務を増やしていきながらも、コンサルファーム、コミュニケーション・カンパニーやメディア・カンパニーとも業務ラインを拡充していきたいと思っています。海外進出に関しては、具体的な機関名はまだ明かせませんが、アメリカの機関との提携が決まっています。私自身はイスラエルとフランスを行き来していくつかの会社を持っているので、フランスでの展開はかなり現実的であると考えています。もちろん日本へのサービス展開にも強い興味があります。

創立からわずか1年半でここまで来るのかと、イスラエルスタートアップの勢いやスピード感に驚きながらの取材となった。その背景にあるのは国防・軍事関連の職務で培われた技術力、そして政府や大学機関による積極的な支援。2018年、イスラエル全体の動向を見ても、サイバーセキュリティ関連企業が史上最多の10億800万ドルを調達している。今後どのように事業を世界に拡大していくのか、業界の中で際立たせていくのか、ますます関心が強まる分野である。

イスラエル関係者の話を聞いて–日本では何ができる?

イスラエルのスタートアップの視線は常に世界に向いているようだ。しかし日本市場に対しては、「とても興味深いがハードルが高い」と口をそろえる。

そんな日本では、2019年6月のG20で、データ流通や電子商取引などデジタル経済の国際ルール作りを進めていく「大阪トラック」の立ち上げが宣言された。また2019年5月に内閣サイバーセキュリティセンターが出した年次計画「サイバーセキュリティ2019」では、自律的、持続的に発展していくサイバー空間を意味する「サイバーセキュリティエコシステム」を目指し、2020年に向けさらなる予算増加を目指す方針を示している。

このことからも、データ保護や安全確保などの整備が官民ともに急務であることがわかるだろう。ならば、イスラエルとの協働は、日本にとってまさに好機なのではないか。

ちなみに、今年のカンヌライオンズで多くの賞を受賞*を果たしたIKEA「ThisAbles」(エージェンシー:McCann Tel Aviv)も、イスラエルからの応募作品である。これはIKEAが開発した、自社の家具用の3Dプリント製補助器具シリーズ。例えば指を使わなくても腕全体で簡単に扉を開けることができるEasy Handle、押しにくい小さなランプの照明にかぶせて操作できるMega Switchなどのアイテムを設計。3DCADデータを公開することで公式サイトから無料でダウンロードできるようにしたもの。今後、クリエイティブ面でもイスラエル勢の台頭に注目だ。

*IKEA「ThisAbles」は、Health & Wellnessでグランプリ1点とゴールド2点、Brand Experience & Activationでゴールドとブロンズ各1点、Directでゴールドとシルバーとブロンズを1点ずつ、InnovationとPRでシルバー1点ずつ、Creative Strategyでブロンズ1点を獲得。

Interview & Text:深澤美奈
Edit:西村真里子、市來孝人