フィリピン最大級のスタートアップ・テクノロジーイベント「IGNITE 2019」とは?【現地レポート】

2019.07.30

電通の海外メディアエージェンシーdentsu X PhilippinesがフィリピンのスタートアップメディアTECH SHAKEと共催する、同国で最大のスタートアップカンファレンス「IGNITE」。

3回目となる今年はイノベーション&スタートアップハブのbrainsparks社も共催企業として参画し、さらに内容が充実。第2回に引き続き、マニラ首都圏中心部Makati市内のShangri-Laホテル会議室を借り切る形で、6月24日、25日の2日間にわたり、スタートアップ500名・コーポレート参加者900名・投資家600名を含む過去最多の約2,000名が参加した。

「IGNITE」とは?

今年のイベント内容は、イノベーションに関するスピーチセッション、スタートアップによるピッチコンテスト、VCとのビジネスマッチングの三本立て。平均年齢24歳という若々しい国のカンファレンスらしく、熱量を感じさせる会場であった。初日の受付から長蛇の列が会場外まで広がる盛況ぶり。またスピーカーも14カ国から60人以上の世界クラスの面々が集まり、過去最大規模となった。

Dentsu Aegis Network Philippines CEO Donald Limのオープニングスピーチ

2日にわたる期間中は盛りだくさんのコンテンツが届けられた。

1日目は、トップスタートアップや専門家による基調講演と3部屋のテーマ別に行われるプレゼンテーションとパネルディスカッション。そして参加者が懇親するアフターパーティ。

2日目は、ビジネスマッチング、そして目玉となるピッチコンペティション“WILDFIRE”、 JETRO Japan Pitch Event、ビジネスマッチングディナーが行われた。

1日目のパネルディスカッション
会場の様子

ピッチコンテスト“WILDFIRE”注目スタートアップ3選

2日目に行われたスタートアップのピッチ“WILDFIRE”には、120社の応募から選抜された12社のスタートアップが登壇。日系を含む国内外のVCやテック企業からなる審査員がジャッジし、優勝2社には10,000ドルの賞金、あるいはSeedstars Regional Summitへの招待が与えられた。

VCやテック企業の厳しい審査を勝ち抜いた、受賞社の3社を紹介する。

① 優勝/賞金10,000ドル&Seedstars賞:CROPTICAL

今年見事ダブル受賞したCROPTICALは農家を救うクラウドファンディングプラットフォームを提供するスタートアップ。

フィリピンの主要産業でもある農業は、低収益かつ年間20もの台風による価格高騰など多くの問題を抱えている。約70%の国民が預金口座を持てず、98%がクレジットカードを所持しないフィリピンでは、高利子や高担保の借金が当たり前。
そういった課題がはびこる中、フェアなトレードで、かつ農業を持続させるために、CROPTICALに登録した農家リストをもとに投資をして、農産物が売れるとリターンを得られるクラウドファンド型の仕組みをつくった。

アグリテックが多くみられた中、CROPTICALはエコシステムを作るという点が高く評価されていた。

② QBO賞:SAKAY

賞金50,000ペソおよびQBO賞を受賞したSAKAY。マニラ首都圏を中心に通学・通勤者に特化した交通案内アプリサービスを提供するスタートアップ。現在は、電車、バス、そして同国ならではのジプニー(ローカルの乗合タクシー)までカバーする。

同国の3大課題の一つでもある交通渋滞。特に通勤時間となる朝・夕方帯は渋滞となる。約500,000ユーザーがアプリを使用しており、目的地や道中のレストランやサービスのクーポンが表示されるなど、広告プラットフォームとしても機能する。

2013年に開催されたPhilippine Transit App ChallengeでもOpen Community Awardを受賞するなど非常に注目を集めている企業である。会場でも、最も拍手や反響の多いプレゼンテーションとなり、注目の高さがうかがえた。

③ PLDT特別賞:1Export

1Exportは中小企業の海外輸出をサポートするスタートアップ企業。中小企業が海外輸出に必要な手続きや輸出先別に異なる書類作成を手伝うサービス。中小企業が事業に専念しながら海外へ輸出をすることを可能にした。中小企業と世界中の流通業者を結び付け輸出の間接コストを削減することで、世界各国への輸出を可能にする。

今回のピッチバトルで注目すべきポイントは、アグリテック系。つづいてリテールテックやフィンテックが多かったこと。どのスタートアップも“世界にまだないサービスを”というよりは、フィリピンがまだまだ貧しいという認識を直視しながらの“社会課題解決系”を志向していることが印象的だった。

WILDFIREの授賞式

JETRO Japan Pitch Event

WILDFIREの合間には、スポンサーであるJETROのセッションも行われた。富士通やJR西日本、キントーン(サイボウズ)など計8社からスタートアップへのリバースピッチを実施。ここでは特に印象的であった2社を紹介する。

① Challenergy 風力発電

これまでの風力発電を根本から変えた日本のスタートアップ Challenergy。日本をはじめとする島国は風向が安定せず、また強風や台風が来る。従来の水平軸型プロペラ式の風車には適さない土地条件であった。そんな中Challenergyは、風力発電装置自体を垂直軸型マグナス式にデザインすることで安定的な稼働を実現し、より高い設備稼働率を発揮できるソリューションを提供。

人口増加が予想される同国。いかに再生可能エネルギーを自国で発電していくかは、より一層優先度が高くなる課題だろう。国家課題に寄り添ったサービスに加え、日本の開発力というブランドが拍車をかけ、フィリピンでのビジネス機会が期待できそうだ。

日系企業のリバースピッチの様子

② Pop inc.

欧米諸国の人種と比べてアジア人の指は短く、約30%がスマートフォンで写真を撮る際、スマートフォン本体を指で支えられず落として画面を割った経験があるそうだ。

Pop inc.が提供するのはSelfie2.0技術。スマートフォン本体の後ろ側面をダブルタップすると撮影できる機能や、本体を傾けると撮影できる機能をスマートフォンデバイスメーカーに提供する。さらには、画像や映像を分析して、画像・映像内の商品詳細や類似商品の紹介へ繋げるといったサービスも展開。

所得層に関わらずスマートフォン普及率が高い同国や東南アジアへむけて同社はサービスを展開する予定だ。

参加者用のアプリでスムーズなマッチング

今回のイベント参加者がアクセスできるアプリ「Brella」は、講演のスケジュールがリアルタイムで更新される。多くの参加者はこのアプリを確認しながら講演会場を移動していた。

また、スタートアップ、投資家、企業同士がコミュニケーションできるビジネスマッチングでは、参加者はアプリ内で事前に気になる人や企業にアプローチして、質問したりミーティングを設定することができ、限られた時間を有効に活用できる仕組みだった。そのおかげもあり、ミスマッチングなくスムーズに話が進んでいたようだ。また、ホテルが会場となっているため、ホテル内のカフェや休憩所など至る所で商談が行われていた。

スタートアップと投資家のみならず、国内外から参加している行政機関、大手企業なども含めて、同国や東南アジアでのビジネス機会を話し合い、実現機会を図ろうという姿勢がうかがえた。

ビジネスマッチングの様子

フィリピンでのスタートアップたち

フィリピンのベンチャーキャピタル市場は東南アジアの中でも成長中であり、エコシステムが確立していない状態でも市場規模は約30~40億円ほど。デジタル化は東南アジアの中でも遅れているが、インターネット普及率は71%と着実に伸長しているため、じわじわと熱くなってきているマーケットだ。

WILDFIREでは社会課題解決型のサービスを計画しているスタートアップが大半であった。このことはフィリピンという国情がよく反映されていると言って間違いないだろう。

フィリピンは1%の富裕層と9%の中間層が、90%の貧困層に支えられている国である。平均年収は約23万フィリピンペソ(約48万円)と東南アジアの中でも決して高くなく、国全体としてはまだまだ“新興国”である。そういった状況の中、PCやスマホを使いながらビジネスアイデアをプレゼンできる高等教育を受けたスタートアップたちは、自然と上位数%の裕福な人々ということになり、接してみると洗練されたマナーが印象的だった。

全体としてアグリテックやフィンテックが多いフィリピン。そうしたスタートアップたちが同国の金融サービスへのアクセスの現状や、農業の非効率性を憂慮しての熱い志が感じられた。

一方で、スマートフォンが普及しているからこそアプリ型のアイディアが多く、企業はよりイノベーティブなアイディアでシームレスにサービスを提供することが求められている。フィリピンをはじめ東南アジアの熱いマーケットに向けて、日本からも投資機会やサービス展開などが増えることを期待したい。

Report:加藤隆寛、丸茂智沙
Edit:西村真里子、市來孝人