アパレルからスタートアップの世界へ 愛され続けるランジェリーブランドをつくるために大事なことーTiger Lily Tokyo 九冨里絵

2019.07.22

第2期のメンタリングプログラムの募集を開始した「GRASSHOPPER」。当サイトでは、クリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材も行い、スタートアップとクリエイティブの関係性について探っていく。

今回は、ロンドンやポーランドなど、ヨーロッパ発のスタイリッシュなインポートランジェリーの販売や、オリジナルのリラックスウェアブランドなどを展開するランジェリーブランド『Tiger Lily Tokyo』の代表取締役 九冨里絵を取材。SNSを舞台に「D2C」型のブランドが数多く誕生する中、ランジェリーに注目した理由、そしてファンに愛されるブランドの秘訣を聞いた。

「ヨーロッパの自由な思想を輸入したい」出張先で目の当たりにした、日本と世界のランジェリー格差

ーはじめに『Tiger Lily Tokyo』立ち上げの経緯を教えてください。

九冨:大学を卒業後、40年続くイタリア生産の鞄ブランドに入社し、ヨーロッパに行く機会が増えました。当時から下着に興味があったのですが、出張先で、日本と海外とのランジェリー文化のギャップを目の当たりにしました。

時を同じくして、アメリカでヴィクトリアズ・シークレット出身者が女性目線で作った新しいランジェリーブランド『Lively』を立ち上げたり、アプリ上で採寸可能な『ThirdLove』が生まれるなど、新しいムーブメントが起こっていました。今なら「女性による自分たちのための下着」という新しいカルチャーが日本でも受け入れられると思い、2016年10月に会社を退社して起業し、翌年3月には代官山に『Tiger Lily Tokyo』の店舗をオープンしました。

ー日本と海外のギャップについて。具体的にどんな違和感を感じたのでしょうか?

九冨:日本では、女性の胸の大きさに対して周囲が意見することが許される風潮があり、自分の体型にコンプレックスを抱えている方が多い気がします。そのため、胸が大きく・小さく見える商品や、寝ている間に胸が育つことを謳った商品ばかりが売れていきます。そんな男性のファンタジーのために存在する下着を身につけることに違和感を覚えていました。『Tiger Lily Tokyo』では「すべての女性が、心から自分を愛せる時代をつくる」というコンセプトを掲げています。

ー取り扱いは、海外の中でもヨーロッパのブランドが中心とのこと。どんな理由があるのでしょうか?

九冨:ヨーロッパとアジア・アメリカでは、ランジェリーに対する思想が大きく異なります。ヨーロッパでは、体型に対して「こうあるべきだ」という思想がないので、その日のファッションや生活スタイルに合わせて自由にランジェリーを選びます。なので、日本やアメリカにはないような、機能性よりもファッション性を重視した、かわいいデザインのランジェリーが数多くあります。日本でも、そんなヨーロッパのランジェリーを販売することで、ありのままの自分の体型に合わせて自由にランジェリーを選べる世界を作りたいと思いました。

ー現在、10ブランドほど取り扱っているとのことですが、数あるブランドの中からセレクトする際のこだわりは?

九冨:新進気鋭のヨーロッパブランドを中心に仕入れています。自分の会社と同じくらいの規模感のブランドをセレクトすることが多いです。もちろん、デザインがかわいいことは大前提ですが、海外でもランジェリー文化に対して同じような思想を持っている方々と出会い協業することで、商品や思想を一緒に発信していきたいという感覚でセレクトしています。

ーセレクト商品に加えて、自社ブランド(ランジェリーやルームウェアなど)の展開はどんな想いで始められたのでしょうか?

九冨:セレクト商品はデザイン性が高いヨーロッパブランドのものが多く、おしゃれな人や感度の高い人の注目を集められる一方、「着てみたいけどハードルが高い」や「高価だから日常使いづらい」と感じるお客様も多いです。そんなお客様にも『Tiger Lily Tokyo』を好きになってもらえるきっかけになるブランドとして、はじめました。『Tiger Lily Tokyo』らしさは残しつつ、より多くのお客様に楽しんでいただけるデザインや素材を選んでいます。

「つくるのは、流行よりスタイル」起業家とブランドオーナーの二つの心を忘れない

ー企画や事業アイデアを考える時のマイルールを教えてください。

九冨:「スタイルをつくる。流行はつくらない。」ということを大事にしています。前職のバッグメーカーで、ヨーロッパのラグジュアリーブランドの生産を担うファミリー企業と仕事をする中で、ルイ・ヴィトンやエルメスのようなブランドが愛され続ける理由を知りました。

たとえ、時代の移り変わりと共に流行の素材やパターンが変わったとしても、一度ブランドを好きになってくださったお客様に、その先もずっと『Tiger Lily Tokyo』というスタイルを好きでいてもらえるような商品やサービスを考え続けたいです。

ー起業にあたって、大きな影響を受けた人はいますか?

九冨:10代前半から「ブランドを立ち上げる」「お店を出す」といった意味での起業には興味がありました。2017年に自己資金でリリートレーディング株式会社を立ち上げ代官山に店舗をオープンすると、初日の店舗は人で溢れかえり、著名なスタイリストさんがSNSで紹介してくれ、百貨店数店舗との取引も決まり、順調な滑り出しに思えました。しかし数ヶ月経つと、オンラインショップでの売り上げは伸びず、店舗のお客様が増えてもスケールして行く兆しが見えなくなってきました。

そんなときに、友人で起業やM&Aの経験もあった石田健くん(株式会社マイナースタジオ代表取締役)が出資を受けるという選択肢があると私の背中を押してくれました。IT業界で働く友人が多かったこともあり、モノやブランドを作る側の人間としてIT業界のようなスピード感や発信力のある方々と手を組んで、ビジネスとしてグロースさせたいという想いが強まりました。この後押しがなかったら、今も一人のブランドオーナーに留まったままだと思います。

「忙しい女性の毎日を彩るために」テクノロジーの力で、試着室や店舗を代替する

ー店舗販売から、現在はEC販売にシフトしていますが、下着は「試着が重要」というイメージがあります。販売の際に意識していることはありますか?

九冨:『Tiger Lily Tokyo』では、仕事などを頑張る忙しい女性が「理想的なものを素早く手に入れられる世界」を目指しています。自分の周りにも、日々一生懸命働く女友達が多いのですが、彼女たちが男女平等の社会の中で目が回るほど忙しく働いている姿を見て、忙しい時や苦しい時に、『Tiger Lily Tokyo』のSNSを開けば、毎日を彩るアイテムがクイックに手に入る世界をつくりたいと思いました。そのためにも、フィッティング至上主義に加担しすぎないように心がけています。

もちろん肌に一番近いものですし、サイズが合うものを身につけることももちろん重要です。一方、日本で下着を買おうとすると、試着室に行って服を一式脱いで、お店の人が来てメジャーで測るというかなりの時間的コストがかかります。日本にはまだ「下着には絶対試着が必要だ」という意見が多くあるので、それを乗り越えた世界をつくってみたいと思います。今後の展開として、個人の体型のデータと趣味嗜好、TPOに合わせて提案していけるシステムの構築も視野に入れています。

ーInstagram上で展開しているライフスタイルマガジン『Lily Life Magazine』は、どんな狙いで運営しているのでしょうか。

九冨:前職の鞄ブランドでの経験が元になっています。そのブランドには、オンラインショップがありませんでした。その代わりに店頭に立つ販売員の方が、服装や語りを通じてそのブランドの思想やライフスタイルを伝えたり、憧れてもらえるような存在になることで、ブランドの「メディア的な役割」を担っていました。

それを見て、今の時代であればブランドの思想やライフスタイルをWebで発信できるのではと思い、Instagram上のライフスタイルマガジンをはじめました。

ーSNS上にはD2Cブランドが増え、起業家とブランドオーナーの境界線も曖昧になってきている気がします。その違いは何だと思いますか?

九冨:今の自分は、アパレルやスタートアップといった定義の一つだけには当てはめづらいのですが、常に市場での顧客獲得や販売について適切な戦略を明確にやりきることができる企業でありたいです。

もちろんVCやエンジェル投資家の方々に応援していただいているので、売りを追求したいという意識もあります。ただそれだけを追求するとブランドは育ちません。スタートアップの良さは、小さい組織と強い思想をもって、意外性のあるものや新しいが売れる世界を作れることだと思います。そんな、スタートアップ企業ならではの強みを生かして、ブランドを育てていきたいです。

ー九冨さんにとって「ランジェリー」とはどんな存在ですか?

九冨:「思想」です。服には、制服や規則があり、自由になることで時に小さな歪みを生むこともあります。一方ランジェリーは、自分にしか見えない空間で、自由や私らしさを楽しむことができる存在だと思います。『Tiger Lily Tokyo』のお客様に、(特定の服装を装うことが多い)お医者さんや弁護士の女性が多い理由も、そこにあると感じています。

ー今後の野望を教えてください。

九冨:「全ての女性が、心から自分を愛せる時代をつくる」というコンセプトのもと、引き続き下着とそれにまつわる商品を展開し、事業を拡大していくことが目標です。これまで培ってきたモノづくりの経験と、やっと出合えたテクノロジーを繋ぎ、より多くの女性の生活の一部となり、幸せを感じられる瞬間を生み出していきたいです。

Interview & Text:長谷川きなみ
Edit:市來孝人