「ITでアート市場を民主化」サイバーエージェント出身者が提案する作品シェアの形「ANDART(アンドアート)」

2019.08.06

第2期のメンタリングプログラム参加企業を募集中の「GRASSHOPPER」。当サイトでは、クリエイティブのチカラを実践しているイノベーターへの取材も行い、スタートアップとクリエイティブの関係性について探っていく。

今回は、現代アーティスト・KAWSの作品の販売会でも話題となった、アート作品のオーナー権を少額から購入できるプラットフォーム「ANDART(アンドアート)」の代表取締役社長松園詩織と取締役高木千尋を取材。エンターテイメントとして、ビジネスとして、様々な側面からアート人気が高まる今。日本のアートマーケットの現状や、なぜオーナー制度を着想したのか、その理由に迫った。

「個人所有」と「共同保有」の二刀流が、アートを民主化する

ーはじめにサービスの概要を教えてください。

高木:一つの作品に対して、単価5万円から好きな数量のオーナー権を購入することで、複数人で作品を共同保有ができるプラットフォームです。オーナー権を購入し “オーナー”となった会員は、オーナー権の持分によって異なる優待が受けられます。

作品は、基本的には商業施設などのパブリックスペースでの展示をし、優待特典でもあるオーナーだけのクローズドなパーティーでの展示という二つの側面で鑑賞を楽しんでいただけます。
また、より多くの方にオーナーとなっていただくためにも一度購入されたオーナー権をサービス内で売買できる機能も開発中です。

ーこれまでも、アート作品のサブスクリプションやレンタルサービスはありましたが、「オーナー制度」を着想した理由は?

松園:以前からアートが好きで憧れや興味関心が強かったものの、どこか精神的な距離が遠い印象がありました。その時に、この距離感を縮めてくれる一番の方法は「買う」という行為なのではないかと思いました。
しかし日本では、資金やスペース・情報不足など様々な側面から、アート作品の購入ハードルが高いです。そこで、これまで一人だったら買えなかったようなアート作品にも「デジタルアセット」や「シェアリング」の概念を持ち込み、レンタルではなく「オーナー権」という形で部分的に作品を購入することで、オーナーになれる喜びをより多くの方に感じてもらいたいと思いました。これまでよりも気楽に、少しでもアートにお金を投じる機会を得ることで、アーティストや作品、アートそのものをもっと知りたいという探求心もでてくるのではと。

ーとはいえ「現物を所有できてこそアートである」といった声も多くあるかと思います。そのハードルはどのように考えていますか?

高木:本来、私たちも自分でア―トを買って家に飾るということをむしろ推奨しています。ANDART(アンドアート)は、あくまでも個人所有が難しい大型作品や、これまで手の届かなかった高額作品との相性が良いサービスなので、作家やサイズ・価格などによって、ANDART(アンドアート)での共同保有と個人所有を使い分けていただくのが理想です。

共同保有の魅力は「何を持つか」と「誰と持つか」

ー現代アーティストKAWSの作品『NO REPLY』の販売で話題になっていたオンライン販売。販売を終えて、どんな反響がありましたか?

松園:単価も大きいので今回2回に分けての販売を行いましたが、想定以上の反響で2回とも即完でした。販売時間にPC前に張り付いていたという声も多く、熱量の高いユーザーさんが集まっている印象でした。

初回の販売会のタイミングがKAWSとユニクロのコラボの直後で話題になっていたこともあり、「あの人気アーティストの一級品を自分のものにできた」といった喜びの声をいただけています。

その他にも、今回はGMOインターネット株式会社の熊谷正寿さん(代表取締役会長兼社長)が個人所有されていた作品でオーナー権を発行して90%相当を部分販売という形をとったため、アートコレクター兼経営者として著名な熊谷さんと一緒に作品をシェアできることがすごいという声もありました。

松園詩織(左)高木千尋(右)

ー取り扱うアート作品は、どんな基準で選んでいますか?

松園:現状は、アートビギナーの方々にもアート購入の門戸を開くことを意識しているので、①多くの人でもピンとくるわかりやすい作品の魅力 
②グローバルな市場評価と人気
③更なる活躍、将来性という視点でもプロのアートアドバイザーから推奨される作品
を選定しました。

ゆくゆくは、すでにファンが多く存在する一流作品だけでなく、アップカミングな若手アーティストも独自にキュレーションして何らかの形で取り扱っていきたいです。特に若手アーティストの方の場合、知名度もまだあまりなくオンラインでいきなり販売するのはなかなかハードルの高いことです。アートを買い慣れていない会員からしても、誰を応援するのかの選定において欲しい情報や出会いたいアーティストのイメージは各々ありますよね。
より良い出会いを生むためにANDART(アンドアート)をひとつのコミュニティーと捉え、“ANDART会員は何を望んでいるのか”という仮説をもとに、誰を扱わせていただくのかという点を検討し、出す情報や販売形態にも工夫を加えるつもりです。

ーアート作品の購入は、投資や資産性も重要な要素ですよね。その部分をサポートするような機能はありますか?

高木:アートコレクターの方々の多くは、比重の違いはあれど、アート本来が持つ魅力と資産性の2つの側面をしっかり把握しモチベーションにしている方が多いので、ANDART(アンドアート)でもその両側面の魅力はフラットに伝えていきたいです。

初めて作品を購入する方にも、これまでアートコレクターや業界の方でしか持てなかったような肌感覚のようなものをなるべく情報提供したいです。そのためにも、自分たちのIT業界のバックグラウンドを活かし「今世界のアート市場でどんな作品がどれくらい金額で落札されているのか?」といった参考データを提供していきたいと考えています。定量的な数字も知ることで、これまであまりに見えにくかったアートの世界が少しでもリアルにみえてくるかもしれません。

「アート業界のキャリアも、コレクター経験もゼロ」がチャンスに

ー松園さんの、企画や事業アイデアを考える時のマイルールを教えてください。

松園:マーケットのポテンシャルとチームの強みが活きる分野を見つけるようにしています。アート市場での起業を選んだのも、現在、グローバル規模でも日本国内でもアート市場に伸びしろがあると感じたのが理由です。また専門性が高く、閉じられた世界だからこそ、我々のITの知識やアートマーケット全体を俯瞰できるビジネス的視点、アート系のキャリアもコレクター経験もないという一般的な視点が逆に強みになると思いました。

ー起業をするにあたり、お二人の出身企業であるサイバーエージェントの影響は大きかったですか?

松園:よく驚かれるのですが、ANDART(アンドアート)は高木と私の二人体制で立ち上げました。これは、サイバーエージェント時代に鍛えられた、お互いの力を引き出すチーム力の賜物だと思います。

もう一つは、応援するカルチャーです。起業後も、藤田晋社長をはじめ、同僚や先輩・後輩も、ANDART(アンドアート)を全力で応援をしてくれ、惜しみなくアドバイスをくれます。いずれも、卒業したあとだからこそ、サイバーエージェントならではの「人を大切にする文化」への恩恵を実感しています。

ー最後に、松園さんの野望を教えてください。

松園:ビギナーにもやさしい、アートマーケットの新しい経済圏をつくりたいです。そのための最初の手段としてオーナー制度による入り口づくりをしています。今後は、個人所有をするための作品と高い精度でマッチングできるECや、アーティストが直接ユーザーに作品をアピールできる場づくりなど“アートビギナーからコレクターまでが集まり、繋がるプラットフォーム”を完成させることで、アート市場そして社会において連続的に価値を創造していきたいです。

Interview & Text:長谷川きなみ
Edit:市來孝人