「Digital Consumer Summit 2019」で語られた「顧客体験価値」のこれから

2019.08.22

2019年6月7日、「Digital Consumer Summit 2019(デジタルコンシューマーサミット)」がセガサミーグループ本社にて開催された。「顧客体験」の本質を参加者と共に考えることをコンセプトとした、事業やマーケティングの担当者が対象のビジネスカンファレンスである。

運営は、スマホアプリ分析プラットフォーム「App Ape(アップ・エイプ)」のフラーと、セガゲームス、そのセガゲームスの持つゲームづくりのノウハウを活かしたソリューションのクロシードデジタル、そして電通の4社。筆者も電通サイドの運営責任者としてイベントに関わり、オープニングにも登壇した。

本記事では、各セッションのサマリーと、スタートアップのビジネス現場に貢献できるポイントをピックアップして紹介する。イベントのタイムテーブルや概要はこちら。トップ画像はセガサミーグループ本社の会場の様子。延べ300名が来場した。

オープニングセッション「顧客体験のジレンマとは」

登壇者左から、セガゲームス/クロシードデジタルの尾崎雄一氏、フラーの櫻井裕基氏、電通筆者(片山智弘)、モデレーターはセガゲームス水野真志氏

オンラインとオフラインのコミュニケーションの境目がよりあいまいになり、デジタルシフトが進んでいく現代ならではの課題をベースにセッションは進行した。

送受信される情報量の増加やアプリなど発信チャネルの急激な増大、「ライブ」や「VR」などに見られるコンテンツと生活者の距離感の変化、キャッシュレス決済のインセンティブ過剰付与、ステークホルダーが増えることによるコミュニケーション課題など、顧客体験価値を考えていく上で、これまでのデジタライゼーション/デジタルトランスフォーメーションでは起こりえなかったテーマへ向き合っていく必要性が議論された。

新時代における“デジタル×リアルシフト“とは

次に、デジタルとリアルの融合にチャレンジしてきた登壇者による議論が展開された。

登壇者左から、ロイヤリティ マーケティング鈴木隆之氏、プレースホルダ後藤貴史氏、アイリッジ金箱彰夫氏、グリーライフスタイル江川嗣政氏、モデレータはセガゲームス/クロシードデジタル伊藤真人氏

このセッションのポイントは、登壇各社とも、リアルとデジタルでメッセージとコンセプトには共通性を持たせる一方、体験価値の役割は両者で明確に分ける戦略を持っていたことである。

特に、リアルの場を活かして、自社のブランド体験のゴールに忠実なリッチなコンテンツを、ある特定セグメントの顧客やインフルエンサーに向けて放つような手法が多くなされていた。そこで生まれた情報授受や共感の仕組みをデジタルでの誘導や継続利用率の向上に結び付けていくのだ。

コンシューマー体験価値のためのグロースハック

続いて、グロースハックによって顧客体験価値を設計していく上で、特に顧客理解や計測を争点にセッションがなされた。

登壇者左からAmplitude, Inc. Japan米田匡克氏、17 Media Japan渡慶次(とけし)道行氏、モデレータは電通デジタル大橋誠也氏

セッションでは、ある食器乾燥機が塗装後のプラモデルを乾燥させるために使用されているというユーザーによるレビュー例をベースに、顧客体験価値を定性的にも観察していくことの重要性と、グロースハックと顧客体験価値追求どちらにおいても共通する重要な指標としてリテンションについて言及があった。

そして、North Star Metrics*も活かしたKPI/KGIの固定化や、サービス体験価値のためにチームやブランド全体で同じ指標を共有することの重要性についてもパネリスト両名から指摘があった。

* North Star Metrics=企業の最重要な目的を数字指標で示した指針をつくり、それに沿って関連する指標をモニタリングしていく事業成長の検証手法のこと。常に真北の方角にある北極星になぞらえて提示された。

SaaSの獲得モデル、あるいはゲーム、デジタルメディアなど産業が成熟した事業モデルにおいては、明確な事業指標―ユーザー指標のツリーが定式化されつつある昨今であるが、破壊的なイノベーションを目指す事業においても事業指標と顧客理解の両立がどう重要になるか検討する必要がある。

モバイル決済革命と今後のお金の概念の変化

続いてのセッションでは、モバイル決済が浸透してきた昨今の、今後細分化が予想されるモバイル決済の動向や、完全にキャズムを超えるためのファクトについて顧客体験を軸に議論された。

登壇者左からDIGDOG/チョコレイト陳暁夏代氏、楽天ペイメント小山幸宏氏、野村総合研究所冨田勝己氏、モデレータはフラー杉山信弘氏

セッションでは、中国におけるモバイル決済の爆発的な普及には国民性や文化背景にも起因するため事情が異なるとしつつ、日本における今のキャッシュレス競争のに向けたUX的なインセンティブの設計や施策についての言及がなされた。

プロダクトベースでは、楽天のように自社で経済圏を持っているプレイヤーが決済システムを内製して始めることが多い市況ではあるが、これらの巨大経済圏が持つ顧客網やチャネル、ブランドを逆に使ってユーザーとの距離感を近づけるなど、あえて他社プラットフォームに乗っかりながら進める事業戦略をもありえるのではないかと感じた。

このセッションの2週間後にFacebookが仮想通貨開発ネットワークのLibraを発表し、現在のペイメントがプロモーションに関して持続可能な仕組みになっていないという問題提起があったが、仮想通貨を法定通貨に変換をしないと使えないのではなく、実体経済(=現存するモノやサービスなどの財と貨幣の価値がリンクし、相互に交換可能な状態)を持てるようなブレイクスルーが必要になると強く感じた。

顧客体験の過度な追求が招いた反省事例からの学び

最後のセッションとして、顧客体験価値追求における登壇者たちの過去の失敗や反省のポイント、その学びが赤裸々に語られた。

登壇者左から、クレディセゾン磯部泰之氏、オルトプラス小林陽介氏、カヤック北川尚宏氏、モデレータはリアル×デジタルの回に続きセガゲームス伊藤真人氏

登壇者からは「感性を信じること」「顧客の要望を聞きすぎないこと」「商品とサービスおよびそのコミュニケーションのバランスを見つけること」の3点が語られた。セッションの結論としては、論理と感性のバランスを持つことが重要であるということがメッセージとなっていた。

顧客の要望を聞き、仮説検証でプロダクトを磨きながらも、キャズムを超えてから様々なユーザーの声に惑わされることはサービスを提供する上で多く発生するが、今回の登壇者たちのように、自社/あるいは責任者が仮説検証や実装の姿勢において方針を持つことが重要だ。

終わりに:顧客体験価値の展望

カンファレンス全体を通して、リアルとデジタル、グロースハック、キャッシュレス、失敗談と切り口を変えて、隣接するテーマから顧客体験について包括的に扱った。

顧客体験価値への追求はサービスを提供する側の永遠のテーマではあるが、マーケットやテクノロジー、ライフスタイルの変化などにより常にアップデートが必要になる。現時点での課題の洗い出し、失敗から学ぶアプローチなどが少しでも読者の皆様のお役に立てば幸いである。

Report:片山智弘
Edit:西村真里子、市來孝人