ブログ開設のようにエストニア起業がスムーズに 日本語で現地進出を支援―「SetGo」齋藤アレックス剛太

2019.11.06

国外にいながら、国内の行政サービスやビジネス環境にアクセスできる電子国民プログラム「e-Residency」をはじめ、ITスタートアップを育む豊かな土壌で知られるエストニア。世界中から新たなビジネスの拠点として大きな注目を浴びている。

「この国のように、新しいことにサクッと挑戦できる世界を作りたい」とエストニアに魅せられ、移住をした齋藤アレックス剛太が今年9月に立ち上げたのが、エストニア法人設立サービス『SetGo』だ。オンライン上で完結し、かつ日本語にも対応しており、日本からでも簡単にエストニア法人の設立が可能になった。

齋藤はバックパッカーとして世界一周をして、エストニアにたどり着いたという。『SetGo』誕生の背景や、ビジネス拠点としてのエストニアの魅力などを聞いた。

ーはじめに『SetGo』の事業内容について教えてください。

齋藤:SNSのアカウントやブログを開設するような感覚で、世界中のどこからでもオンラインでエストニアの法人登記ができるサービスです。申請の所要時間はわずか10分ほど。同国の電子国民になると交付されるエストニア版マイナンバーカード「e-Residency」を読み込み必要項目を入力すると、データがエストニア政府に送られ、1営業日以内で申請が承認されます。日本でクレジットカードを作るよりも、エストニアで法人登記する方が簡単かもしれません(笑)。

また、エストニア国内で事業を始めたい企業向けのコンサルティングも行っています。プラットフォームを提供し法人を開けるだけではなく、現地でのプロジェクトパートナーとなることで、その先の事業支援・価値創造をしていきたいと考えています。

世界中の”挑戦者”を味方に、自国のプレゼンスをあげるエストニア

ー電子国民プログラムをはじめ、エストニアが海外からの企業・人材の誘致を積極的に行うのはどのような背景があるのでしょうか?

齋藤:前職のVeriffというスタートアップ企業にも40カ国以上の社員が所属していました。エストニアには小国がゆえのビジネス規模の小ささやリソース不足を解決すべく、外国人や海外企業を巻き込みながら自国のプレゼンスを上げていこうという考えが根強いです。エストニアの地から生まれた『Skype』も、実は創業メンバーにエストニア人はいません。

Skypeのような好例を再現しようという狙いもあり、現地では「スタートアップエストニア」という政府機関が設置され、外国人起業家を誘致し、エストニアのスタートアップエコシステムの活用を促進しています。人口の0.1%という上限があるビザの交付も、スタートアップ関係者・日本人・アメリカ人に関しては上限を設けていないという特徴があります。

ー実際に、電子国民やエストニアの起業は増えているのでしょうか?

齋藤:日本からe-Residencyを通じて設立された法人は、241社(世界14位)と多く、日本からのe-Resident(電子国民)の約2,946人のうち1割の人が会社を持っている計算です。(2019年11月1日現在 エストニア・イー・レジデンシー公式チームより)一方、現状はアクティブに活動できている会社は多くなく、休眠会社かペーパーカンパニーが大半を占めているという現状もあります。

少し話が飛んでしまうかもしれませんが、エストニアはサウナ大国で、サウナは現地の人たちのビジネスに関する情報交換が活発に行われる場所にもなっています。しかし、国外にいる電子国民の方は、そういった接点もなく、現地企業とのつながりも希薄化しているのが従前の課題でした。そこで、外国にいながら法人設立できるという素晴らしい制度を活用するために、情報と言語の大きな壁を解決するサービスを作ろうと思い立ち、それが今日の『SetGo』に繋がっています。実はこのアイデア自体も、日下(SetGoの親会社であるblockhive 共同創業者・日下光氏)とサウナで会話する中で生まれています。SetGoはサウナで生まれたサービスということですね(笑)。

課題先進国・エストニアだからこそ、挑戦できるビジネスがある

ーe-Residencyを使って法人設立するメリットを教えてください。

齋藤:主に、このようなメリットが挙げられます。

①安価な設立費・維持費
②法人税(20%)は、利益ではなく配当する際にのみ課税
③書類の電子署名や暗号化による、スムーズな会社のリモート経営
④EU加盟国なので、EU市場でのビジネスが可能
⑤物理的な現地進出の足がかりになる

コストや事務手続き・海外展開など、様々な観点でメリットがあるので、「このビジネスモデルならエストニアで起業しよう!」といった感覚で、起業する国の選択肢の一つになるように、プラットフォームやコンサルティングを展開していきたいです。

ー齋藤さんが、エストニアでの起業に向いていると感じる業種やビジネスの特徴はありますか?

齋藤:IT系がもっとも相性がいいです。『Skype』を生んだことに端をなすスタートアップエコシステムがあるので、IT産業が活発かつ非常に質が高く、これまでもSkype含め4社のユニコーンがエストニアから輩出されています。

ーそんな中、現在の『SetGo』ユーザーにはどんな方が多いですか?

齋藤:業種も幅広く、形態も法人企業からフリーランスのエンジニア・デザイナーの方までご利用いただいています。その中でも特徴的なのは、エストニアの「課題先進国」であるという側面に注目をして、エストニア展開を検討している企業・組織があることです。事実、エストニアは、少子高齢化・冬季うつ・難聴者が多い「課題先進国」としても知られています。

たとえば、現在エストニア展開をお手伝いしている「世界ゆるスポーツ協会」は、スポーツを通じて様々な社会課題を解決していくことを目指しており、海外展開の際もアメリカや中国ではなく、より社会課題が明確な国に輸出したいというお話がありました。現在は現地での認知度向上やパートナーシップの組成を目的としながらエストニア側での事業推進を担当させていただいています。

弊社ではそのほかにも、難聴者向けのスピーカーの製造会社の北欧事業展開のサポートもしており、このように、課題解決に特化した企業・商材の海外進出とは相性がいいのもエストニア市場の特徴かもしれません。

異国の地で知った、語学力や実績より大切な「貢献の精神」

ー海外を拠点に働く際に、齋藤さんが大切にしている心構えはありますか?

齋藤:「貢献」の考え方です。言語・文化の壁がある中で働く際に、現地の方々に対して何らかの形で自分の価値を提供していかなければ、彼らの時間やリソースを搾取するだけになってしまいます。

なので、エストニアへの移住直後は現地に対してどんな貢献ができるのか徹底的に考えていました。貢献の形は、ビジネスでもカルチャーでもいいと思います。僕の場合は、知見のある事業開発でお手伝いしたり、日本市場や商習慣に関するレクチャーをしたり、時には日本の食材で鍋パーティーを開催することもあります(笑)。

アウェーな場所に入って行く以上、常に貢献の精神を持って、どうやったら自分の価値を最大限提供できるのかを考えて実践することが、現地に温かく受け入れてもらう秘訣だと思います。

ー世界を舞台に活躍する齋藤さんですが、日々意識している情報のインプット法やアイデアの発想法はありますか?

齋藤:ひとつは「好きをとことん突き詰めて、嫌いを減らしていく」ことです。仕事も人間関係も、好きなことにはとことん時間を投下して、嫌いなことに割く時間は最小限になるようにしていくと、自然と領域が絞れるようになり、より深い情報に触れ合えるようになります。

ふたつ目は、定期的に自分の現在地を確認するために「価値観の言語化」を大切にしています。独自の「価値観チェックリスト」を作っていて、ここには世界一周や日本での生活など、様々な暮らしの中で感じた幸せと不幸せの気づきから抽出した項目が並んでいます。これを、週一回は必ずチェックするようにしています。日々、幸せだと思うことや価値観は変化するので、毎週言語化することで自分に今足りていないこと・したいことが明確になり、次の行動のヒントになっています。

ー最後に、『SetGo』を通じて作っていきたい世界を教えてください。

齋藤:「新しいことにサクッと挑戦できる未来」を作りたいです。日本で起業というと「リスクをとった大きな決断」というイメージを持たれがちです。しかしエストニアに移住すると、周りがどんどん起業するのを目の当たりにして、起業は特別なことではないことを実感しました。これこそ、エストニアという新しいことに挑戦しやすい環境に身を投じたことで味わえた特権だと思うので、これから『SetGo』を通じて、この価値を日本や世界に還元していきたいです。

Interview & Text:長谷川きなみ
Edit:市來孝人